14. 純情異性交友

 全力でキス拒否したものの、カルにすんなり引かれるとモヤモヤする。

 やっぱりカルもキスは好きな子だけにしたいと思ったのかな。


 意外と純情な反応だけど、それがヒロインのためだと思うと、胸がズキズキした。

 こんなことなら、さっさとキスしておけばよかったと、本当に後悔しそう。


「結婚までか。結婚する気にはなったんだな。ならいい。事故チューはよくて、エロいのはダメってことだろ。じゃ、ご褒美キスはOKだな」


「え、何、その理論。ご褒美って一体……」


「午後の競技。最高得点で優勝したら、祝福のキスをしてくれよ」


「午後って、カル、競技にでるの?」


「当然だろ、国技に出ない王族がどこにいるんだよ」


 嘘でしょ、だって午後の競技は。


「だから、もしものときのために、お前の力を戻しておきた……」


 カルが言い終わらないうちに、私は思わずカルに抱きついていた。


「何してんだよっ。誤解を招く行為はダメだって、自分で言ったばかりだろっ」


 いきなり抱きつかれたせいか、カルの顔はかあっと赤くなった。体も熱を持って火照っている。


 それなのに、それに触れている私の方は、全身の血の気が引いて、むしろ寒いくらいだった。


「心配だよ。あんな危ない競技。この学園の選手はセミプロだよ? いくらカルでも、優勝どころか大怪我するかも」


 思わず涙が出た。どうしよう、怖い。カルが死んじゃったらどうしよう!


 ガタガタ震える私を、カルがギュッと抱きしめた。そして、指で優しく涙を拭ってくれる。


「心配症だな。大丈夫。勝つ自信あるんだ。それに、聖女がいれば、怪我しても安心だろ。だから、魔力を受け取ってくれよ。これはキスじゃない。万一のときの救命行為への備えだ。それなら、いいんだろ?」


 私は黙って頷いた。魔力と聖女の神力は違う。それでも、魔力が入れば体の回復が早まる。

 心身が回復すれば、祈りに集中できる。万物のエネルギーを集めやすくなるのだ。


 私はカルの首に腕を回して、自分から口づけた。


 人には器としての容量がある。私の器に魔力を満たしたとしても、カルにとってはたいした損失にもならない。


 唇から、体から、触れ合っているすべての場所から注ぎ込まれるカルの魔力に、私はそのまま身を任せた。

 魔力が注がれる感覚。いつものように舌を絡めると、あまり気持ちよさに、全身が喜んでしまう。


 あれ? いつものように? カルとキスをしたのは入学式だけ。なのに、なんで体がこんな反応をするんだろう。

 すごく気持ちがいい。止められない。


 ああ、そうか。夢の中だ。王宮で見る夢は、いつもちょっとえっちだった。カルから与えられる快楽に体がビクビクと震えちゃうような。


 キスに夢中になっているうちに、私たちは無意識にベッドの上に身を横たえて、しっかりと抱き合っていた。

 お互いの体から伝わるのは、魔力なのか体温なのか。あまりの心地よさに、体がドロドロに溶け合ってしまいそうだった。


 愛しさと切なさで、体の芯がきゅうっと締め付けられる。もっと触れて欲しい。こんなんじゃ物足りない。私の手が自然とカルの背中を這う。


「眠ったほうが、魔力がうまく染み込む。十五分たったら起こすから、少し寝ろよ」


 まるで全身で吸い付くように、カルを貪っていた私は、その言葉で正気に戻った。

 どうしよう、一瞬、理性が飛んでた。私、完璧に痴女だった!


「う、うん。ありがと。ごめん、なんか加減が分からなくって。魔力をもらうなんてこと、慣れてないから」


 今度は私が赤くなる番だった。惚けた顔を見られないように、私はカルの胸に顔をうずめたまま言った。


 カルはそれに対しては、何も返答してくれなかった。たぶん。

 というのも、私はすぐに深い眠りに落ちてしまったから。


 ああ、不思議だ。まるで王宮のベッドみたい。すごく心地いい。

 そしてカルは、私が眠っている間、ずっと抱きしめてくれていた。


 もしかして、カルは私のことが好きなのかな。そんなことを夢見てしまいそうなほど、それは幸せに満たされた時間だった。


 これは愛情じゃなくて友情のなせる業。私もカルも、お互いが死んじゃうような目に遭ってほしくない。

 だから、こうやって力を交換するのは、共通の利益のため。


 それにも関わらず、もっと先まで進む夢を見るのは、私が堕落した聖職者だから。

 カルを欲しがるこの気持ちを、私はいつまで抑えていけるんだろう。


 急がなくちゃ。間違いが起きてしまう前に、なんとかカルから離れなくちゃ!

 でも、私にそんなこと、本当にできるんだろうか。

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