13. 不純異性交遊
「ちょっ! カル、ダメよ。こんなところで。誰か来たら困るっ」
「誰も入って来れない。鍵はかけたし、ここは密室だ」
「そ、それなら、ますますダメでしょ。その、こういうことは、誤解を招くし」
「誰の誤解が、なんで困るわけ?」
「だって、若い男女が密室って、なんかマズいでしょ」
「はあ?ああ、そうか。そういうのを期待してるんだ?」
ちがーう! 逆だよ、逆。こんなの健全じゃないっ! 危険だよっ。
なんで、私とカルが二人っきりで、診療室のベッドの上にいるのよ!
しかも、鍵付き密室って。休憩は休憩でも、昼休みじゃなくて『ご休憩』みたいじゃないのっ!
保健委員会顧問の鬼畜医養護教諭とのヒロイン攻防戦の末に、まだ地面へたり込んだままだった私を、カルは颯爽と抱き上げた。
周囲から、またもや黄色い悲鳴があがったのは、言うまでもない。
何これ。すごい既視感。
うんうん。入学式にもこんな感じの騒動あったね。あれも、私が誰か攻略対象者のフラグを、バキバキに折ったときだったね。
同じ状況。学習してない私。
「先生、少し悪ふざけが過ぎますね。シアの具合が悪いようなので、診療室に連れていきます。鍵を貸してください」
「カルロスか。君は王族とはいえ、学校ではただの生徒だ。教師に意見を言える立場ではない。そのこと、きちんと分かっているのか」
「ええ、もちろん分かっています。だから、穏便に済ませようと、鍵をお借りしたいと言ってるんです。シアは少し休ませます。午後の競技には、聖女の力が必要ですから」
「ああ、なるほど。教師として、生徒の不純異性交遊は見逃せないのだが。魔力の補給ということなら、まあ、いたしかたない。だが、ベッドは汚さないでくれ。冤罪は困る。ただでさえ聖女さんには、何か誤解されているようだしね」
「ご心配には及びません。僕は先生とは違いますから」
「どうだろう。そうは見えないけれど。男の考えなんて、そう違わないものだろう」
「それは認めますが、少なくとも僕には、不純な動機はありません。行動には責任を持ちますから」
「責任なら私も喜んで取るよ。愛しい人のためならね」
何なの、この会話。何の話をしてるのよ? 話が見えない。
ふ、不純異性交遊って……! そんなのないから。
カルも鬼畜医も穏やかな笑顔を浮かべて、一見なごやかに見える。実際はものすごいテンション。空気がビリビリと震えてる。
威嚇行為? ヒロインをめぐっての、恋の鞘当て……ではないな。
サラちゃんは遠巻きに見守っているだけで、この場面ではその他大勢だ。
どう見ても、このシーンでは私がヒロイン・ポジション。なんで、こうなった?
あ、もしかして、サラちゃんは別の攻略対象ルートに入っているのかも。
この二人はもう、モブ扱い? まさかね。ありえないわ。
それよりも「フラグがバキバキに折れちゃうのはバグが入ってるから」って言われた方が、よっぽど納得できる。
つまり、ゲームのシステムエラー的な理由のせいなら。
困惑する私をよそに、あれよあれよと言う間に、カルはしっかり診療室の独占使用許可をかすめ取った。
そして、ベッドの上に私を乗せ、自分は私の上に乗って……って、それはない。
私はベッドの上で正座して、カルは縁に腰掛けている状況だった。
私が距離を取るため、にじにじと後ろへ移動しようとすると、パッと腕を掴まれた。
ちょっと、なんか、どうしよう。
「逃げるなよ。魔力を補充するだけだ。取って食いやしない」
「キ、キスはだめよ」
「は? 今更、何言ってんだよ?」
「入学式のは救命救急! あれは事故チューだから、私のファーストキスじゃないの! せ、聖女はキスなんてしたら、絶対にダメなんだからね。清く正しく美しく!」
「清くって。そんなもん、今はもう誰も守っちゃないだろ。結婚まで一年を切ったんだし、そろそろ俺たちもそういう関係になってもいいだろ」
いや、ダメダメダメダメ! ダメだから!
というか、ここで深い関係になって、それで最終的に婚約破棄とか、もうお先真っ暗だよ。絶対にダメ!
聖職者は「お清」が必須なの。 カル以外の男に嫁ぐ気ないんだから、神殿に聖女として雇ってもらえなければ確実に野垂れ死ぬ。
「と、とにかく、結婚までは清い関係でいたいの! キスなんて、破廉恥行為は絶対に嫌っ」
転生者の私としては、キスごときで破廉恥とか「ひいばーさん世代か?」と思う発言だ。
でも、最近なぜかぐいぐいと距離を縮めてくるカルには、このくらいの牽制がちょうどいい。
思春期の男子はそのことしか頭にないらしいけど、そんなのにあっさり飲まれたら、私もカルも後悔する。ここは慎重に行動しなくてはっ!
そうやって、軽く、いや厳しく拒絶したはずなのに、なぜかカルは急にご機嫌になった。
なぜ笑う?
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