記者 《有栖》
お店の前は明るいし、人通りも多いから大丈夫。
私がスマホを触りながら兄を待っていると、すみません…と男性の声が聞こえた。
振り返ると、さっきぶつかった男性が立っていた。
「あ、さっきの……」
と私が言いかけると、男性はゆるく頭を下げながらにやにやと笑った。
「また会いましたね…私、春夏出版社の者ですが……」
私は咄嗟に身を固くする。
思い出した、この人、学校の前で待っていたマスコミの人だ。
「何も……話すことはありません…」
背を向けようとすると、男性が私の腕を掴む。
「まあ、そんなに冷たくしないで」
男性は敬語を崩して言った。
「有栖ちゃん、あんたに関する重要な写真や動画をこちらは握ってるんだよ…」
「は、離してください」
「あんたが、お兄さんや弟さんに絶対見られたくないモノのはずだよ……思い当たるだろう。確認したかったら、連絡してきて」
男性がにやりと笑って、私を掴む腕に力を込める。
「痛っ..」
思わず声をあげる。
「写真の確認をお兄さんや弟さんに頼んでもいいんだよ。話を聞かせてくれるなら、悪いようにはしませんって」
男性は私の鞄のポケットに名刺のようなものをすっと入れた。
「連絡先、いれとくから」
男性が私の腕を離す。
*
「有栖っ……」
背後で兄の声がした。
「おっと……お兄さんのお迎えだ。有栖ちゃん、連絡を待ってるよ」
男性は耳元でそっと言うと、足早に去っていった。
「遅くなってごめんな……今の男は……?有栖、顔が真っ青だ……なにがあった?」
覗きこまれそうになって、思わず顔を背けてしまう。
「記者さんみたいだったけど…お兄ちゃんが来たからいっちゃった……」
「なにか言われたのか?尋ねられたとか……」
兄が、私の手首を掴んで,なおも私の瞳を覗きこもうとするので、私は首を必死に横に振る。
「なにも…聞かれてないっ……!大丈夫…」
鞄をきゅっと脇に抱える。胸が苦しい。
兄や竜之介に見られたくない写真って……。
「有栖……」
困ったように兄は私を見つめ、そっと肩を抱いてくれた。初めて、自分の身体が震えていることに気づく。
「大丈夫、怖がらなくていい……有栖は俺が守るから……」
耳元で優しく諭すように囁かれる。その言葉に胸が痛んだ。
私の写真や動画……他の誰よりも兄や竜之介に見られたくない。
あんな光景……。
本当はわかってる。
きっと私は今も兄に恋をしているんだろう。
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