記者 《有栖》

お店の前は明るいし、人通りも多いから大丈夫。


私がスマホを触りながら兄を待っていると、すみません…と男性の声が聞こえた。

振り返ると、さっきぶつかった男性が立っていた。


「あ、さっきの……」

と私が言いかけると、男性はゆるく頭を下げながらにやにやと笑った。

「また会いましたね…私、春夏出版社の者ですが……」

私は咄嗟に身を固くする。

思い出した、この人、学校の前で待っていたマスコミの人だ。


「何も……話すことはありません…」

背を向けようとすると、男性が私の腕を掴む。

「まあ、そんなに冷たくしないで」

男性は敬語を崩して言った。

「有栖ちゃん、あんたに関する重要な写真や動画をこちらは握ってるんだよ…」

「は、離してください」


「あんたが、お兄さんや弟さんに絶対見られたくないモノのはずだよ……思い当たるだろう。確認したかったら、連絡してきて」

男性がにやりと笑って、私を掴む腕に力を込める。

「痛っ..」

思わず声をあげる。

「写真の確認をお兄さんや弟さんに頼んでもいいんだよ。話を聞かせてくれるなら、悪いようにはしませんって」

男性は私の鞄のポケットに名刺のようなものをすっと入れた。

「連絡先、いれとくから」

男性が私の腕を離す。



「有栖っ……」

背後で兄の声がした。

「おっと……お兄さんのお迎えだ。有栖ちゃん、連絡を待ってるよ」

男性は耳元でそっと言うと、足早に去っていった。


「遅くなってごめんな……今の男は……?有栖、顔が真っ青だ……なにがあった?」

覗きこまれそうになって、思わず顔を背けてしまう。

「記者さんみたいだったけど…お兄ちゃんが来たからいっちゃった……」

「なにか言われたのか?尋ねられたとか……」

兄が、私の手首を掴んで,なおも私の瞳を覗きこもうとするので、私は首を必死に横に振る。

「なにも…聞かれてないっ……!大丈夫…」


鞄をきゅっと脇に抱える。胸が苦しい。

兄や竜之介に見られたくない写真って……。


「有栖……」


困ったように兄は私を見つめ、そっと肩を抱いてくれた。初めて、自分の身体が震えていることに気づく。


「大丈夫、怖がらなくていい……有栖は俺が守るから……」

耳元で優しく諭すように囁かれる。その言葉に胸が痛んだ。


私の写真や動画……他の誰よりも兄や竜之介に見られたくない。

あんな光景……。


本当はわかってる。


きっと私は今も兄に恋をしているんだろう。

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