ガールズトーク《有栖》
「えー!竜之介くんにも会いたかったのにー。きっとますますカッコよくなったんだろうなー。」
大学生になって大人っぽくなった奈緒ちゃんは残念そうに言う。
「竜之介くんがついてこないなんて珍しいね。いつも呼ばなくてもついてくるのに…」
華ちゃんは高校のころと変わらない調子でうふふと笑う。
「だって女子のお茶会ってきいたから」
置いてきた…というのは半分嘘で、竜之介には言わずにきたのだ。
竜之介がいると、みんなが遠慮してガールズトークをしてくれないから。
「竜之介くん、彼女できちゃった?」
最近、年上の彼氏と別れたばかりという奈緒ちゃんは興味津々に聞いてくる。奈緒ちゃんは、高校時代、一時期、竜之介を好きだったという過去がある。
ううん、たぶんいないと答えると、よかった〜〜!と、奈緒ちゃんが明るくリアクションをくれる。
「竜之介くん、気がきくし、かわいくてかっこいいよね。有栖も竜之介くんには弱いところ見せちゃうでしょ?竜之介くんは有栖のナイトだよね」
華ちゃんが笑いながら、コーヒーカップに口をつける。
「う、うーん……」
私は言葉を濁す。
「そんな様子じゃ、有栖はまだ彼氏はいない感じだねー」
奈緒ちゃんはさっぱりし様子で言う。恋愛の話は女子会には欠かせないものらしいけど、私はまだどんなふうに話していいのかわからない。そんな未来は想像できないのだ。
「でもさ、有栖と竜之介くんが付き合ったら絵になりすぎてちょっと怖い。血がつながってないなら付き合っても大丈夫なんでしょ?アリだよね?」
奈緒ちゃんは目をキラキラ輝かせて楽しそうだけど、私は困ってしまう。
「奈緒、あんまり有栖をいじらないの。有栖は有栖のペースで進んでいけばいいし、家族はいろいろな形があるのよ」
華ちゃんが助け船を出してくれる。
華ちゃんはおっとりしているけど大人っぽい。
「有栖の初恋の話くらいはいつか聞いてみたいけどね」
華ちゃんがゆったりした表情で笑う。
たぶん私の初恋は兄だったんだろうな……。
兄はとにかく昔から大人っぽくて、四つしか年が離れてるとは思えないくらい頼もしい存在だった。
はじめて会ったとき私は小学生で、兄は中学に入る頃だった。
家を空けがちだった両親の代わりにいろいろ面倒をみてくれて、竜之介と私を大切にしてくれていた。
ふざけて寝ている竜之介にキスしたことはあったけど(あまりにもかわいくて)真剣な気持ちでキスをしたのは兄が初めてだった。大胆にも私からキスした……気がする。
兄はすごく戸惑った顔をしていたけれど、私を拒絶しないでいてくれた。
でも、あの時、私はどうしてあんなに勇気があったんだろう。
どうしても、どうしても、伝えたかった。
兄が、私の世界を変えてくれた人だったから。あの頃、兄がいてくれなかったら私は……私はきっと生きていられなかった。
兄にとっては家族として愛してくれていただけなのかもしれないとしても。
ズキン……
久しぶりにあの頭痛がして、思わず身をすくめる。
「有栖?」
華ちゃんが心配そうな顔で私を見つめている。
「ごめんね、変なこと言っちゃったかな?」
「ううん、大丈夫だよ」
私は気分を変えようとトイレに立った。
手を洗い、席に戻ろうとしてすれ違いざまに男性と軽く腕がぶつかる。
咄嗟に、すみませんと謝ると男性もぺこりと頭を下げたように見えた。
あれ……?
あの男性、どこかで見たような…帽子をかぶっていたからよく顔は見えなかったけれども。
少し気になったけれど、席に戻って、華ちゃんたちと話しているうちに、そんなことは忘れてしまった。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、ふと気づくとお店の窓の外は暗くなっていた。
スマホで時間を確認すると、7時半をまわっていた。まだまだ早いけれど、兄や竜之介が心配しだす時間だ。
そろそろ帰ったほうがいいかな…私は兄にメールで連絡をした。
すぐに既読の印がついて
「すぐ迎えにいく」
飾りのない返信の
早さにほっとして頬がゆるむ。
華ちゃんは今夜は彼のおうちにお泊まり、元気な奈緒ちゃんは夜は別のお友達とカラオケの約束があるというので、また会おうねと約束して、店の前でそれぞれ別れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。