冷蔵庫のつくね 《竜之介》
抱きしめて、僕のだから近づくなって言いたい。
それができない。
「普通にめちゃくちゃムカつく奴だな……殴りてーわ……竜之介、よく耐えた…」
悔し過ぎて、夜、つい、兄に告げ口してしまった。
がしがしとつくねをつくりながら、兄が口汚く渋川を罵ってくれたので、俺は少しほっとした。兄も聖人君子じゃなかった。
「有栖が言い寄られるのは今にはじまったことじゃないけど、そういう嫌な感じのは
、はじめてかもな……」
兄はつくねのタネを小判型にまとめながら顔をしかめる。
「俺、有栖をわざと傷つけるような物言いが許せないんだ……なにあいつ、ほんと絞めたい…」
僕が言うと、
「有栖のクラスメイトを絞めるわけにはいかないしな」
兄はつくねをバットに並べていく。
「有栖は俺のものだって言いたい….」
つい怒りに任せて普段は言わないようなことを言ってしまう。
兄はつくねをバットに並べ終えて、ラップをかけている。
それから少し咎めるような眼差しを僕に向けて、
「有栖はおまえのものじゃない」
静かな声のトーンのまま言う。
「……わかってるよ.…」
言ったことを少し後悔しながら不貞腐れて返事をする。
「もちろん俺のものでもない」
兄はエプロンの腰ひもを外しながら続ける。
「有栖は自由だ」
兄の言葉が突き刺さる。
そんなのわかっている。
「でも有栖を傷つける奴は誰であっても許さん」
兄は見た目より機嫌が悪くなっているのか、つくねを冷蔵庫にいれて、バタン!
と乱暴に冷蔵庫を閉めた。
つくねに八つ当たりするなよ……。
「竜之介、有栖は嫌な奴の言葉をすべて真に受けるような子じゃない。あの子は強いよ」
兄は、静かな目をして言う。
「だから、おまえが有栖を守りたいなら、強くなって守れよ」
俺の頭をポンと叩いて、兄はキッチンから出ていった。
くそう…余裕ある発言しやがって……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。