涙 《有栖》

「なんだよ、あいつ……!」


吐き捨てるように竜之介がいう。

「有栖!あいつがあんなふうに絡んできたの初めてじゃないんでしょ?前、俺がチラッとみたのもたぶんあいつだよね?なんで言わなかったの?」

怒ったように竜之介が言う。


「ごめん、自分でちゃんと断りたくて。渋川さんも悪気があるわけじゃないかもしれないし……」

「そういう問題じゃなくて……!っていうか、あんな奴庇うの?有栖は甘いんだよ」

竜之介に言われて、じわっと目頭が熱くなる。


そんなつもりじゃない。 


ただ、渋川さんが言っていることがぜんぶ間違っているわけじゃないから否定はできなくて。

「ゴ、ゴメンっ、有栖が嫌な思いしてたのに、俺……カッとなっちゃって…有栖のが怖かったよね」

私の表情を見て、竜之介は、ハッとしてから、しまったという顔をする。


私は首をふるふると振ってなんとか笑ってみせようとする。

どうしてうまくいかないんだろう。

でも、私は泣きそうな顔をしているらしい。


「うわー‼︎ごめんごめん、やだな、俺。兄貴ならこんな言い方ぜったいしないわ。有栖を責めるのは完全に間違ってる」

竜之介は頭をくしゃくしゃと掻く。

「俺、ぜんぜん余裕ないね….なんか、くやしくて……今だってさ、ほんとは有栖を抱きしめたいけど、きょうだいなら…その…キモイんだろ……普通ならそんなことしないから……大人になるって言ったのに……俺、まだまだだ……」

「そんなこと…ない!」

私は竜之介にしがみつく。

渋川さんの意地悪な言葉に竜之介も傷ついている。

「キモくないよ」

私は竜之介の胸に顔を寄せて小さい声で言って、ぐすっと鼻を啜る。

竜之介はそんな私を片手でぎゅっと抱きしめて、私の頭を優しく撫でてくれた。


渋川さんはどうして私に絡んでくるんだろう、そして、なぜ私が動揺するような意地悪な言い方ばかりするんだろう。

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