山田が髪を染めた日
亜之
山田が髪を染めた日
「勉強やスポーツできる奴、全員消えてくんねえな」
俺たちの他に誰もいない部室で、隣で菓子パンを食っていた山田が突然物騒なことを呟いた。
「いきなりなんだよ」
「だってよ、あいつらは俺らと違って、友人や彼女もできるわ、先生にも一目置かれるわで恵まれすぎだろ」
何故こんなことを言い出したのか、ここで察しがついた。
山田が好きな佐藤さんが、最近サッカー部の竹内くんと付き合いはじめたという噂が出ているのだ。
「お前さ、それ竹内くんのこと言ってるだろ?」
そう質問すると、驚いた顔で固まったあと、ゆっくりと頷いた。
「分かってはいたんだよ。佐藤さんが俺を好きになるわけないって」
そもそも山田は佐藤さんと話したこともない。好きになるならない以前の問題だった。
「いや、俺だってさ!運動か勉強のどちらかでもできる人間だったら、自分に自信を持てる人生を歩けいてたわけじゃん?そしたら佐藤さんにも積極的に声をかけれたかもしれないわけじゃん!?」
「いや、今の状態でも話しかけることくらいはできたはずだろ?」
そう言うと、山田ががっくりと肩を落とす。
「何も魅力が無い俺が話しかけても嫌われると思って…勇気が出なかった」
馬鹿げたことを言っているとは思ったが、俺も山田とさして変わらない人間なので、気持ちは理解できた。
山田は勉強もスポーツも下の方で、容姿についてもおしゃれに気を使っていない素のままの状態でパッとしない。
「身だしなみだけでももう少しちゃんとすれば、ごまかしが効くんじゃねえかな」
俺はアドバイスしてみる。
「やっぱり…そうするしかねぇか」
山田は自分に気合いを入れるかのように、菓子パンを持っていない方の手で頬を軽く叩いた。
「俺、髪染めることにするわ」
そう言った後、山田は菓子パンを食う作業に戻った。
翌日、山田は髪を金色に染めてきた。
教室に入ってきて席に座ったあいつに皆は驚きつつ、遠巻きに見ていることしかできなかった。
山田の意中の佐藤さんもその金髪を怪訝な顔でじろじろ見ている。
そりゃそうだ。あまり目立たない茶髪にするのが学生の相場なのに、金髪なんてやりすぎだ。
俺だけでも山田に声をかけてやるべきか悩んでいたところ、先生が教室に入ってきた。
山田の髪がよほど目立つのだろう。すぐさまその髪色に気づいて、激怒しながら生徒指導室まで山田を連れていってしまった。
さらばだ、山田。次はもうちょい教室に溶け込む色に染めてこいよと心の中でエールを送った。
山田が髪を染めた日 亜之 @akore
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