31

悠梨亜が部屋から出てくるなり、私を見つけると直ぐに腕を引っ張ってリビングに連れていかれた。熊ってば、もう話したのね。



「はい、報告。」



悠梨亜が大きな声で私に言うと、朋と麗奈の視線も私に注がれる。



「ご飯の時でいいじゃない。」


「待てない! それに柚葉の口から聞きたい!」



熊からの話では満足しなかったということなんだと思う。だけど、きっと私からの話でも満足は出来ないと思う。私は悠梨亜を落ち着かせて、とりあえずリビングの椅子に座らせた。


麗奈が作ってくれたご飯が完成して、それをテーブルに並べきってから、また悠梨亜が騒ぎ始める。



「はい、いただきます。報告してください。」


「何? 熊? 桃?」


「悠梨亜が言ってるってことは熊じゃないの?」


「熊だよ。私、熊から聞いたんだから。柚葉早く。」



悠梨亜って本当にせっかち。私は落ち着いて、いただきますと言ってから、3人の顔を見た。



「告白はされてないと思うよ。」


「え、そうなの? 熊が言ったよって言うから、告白したんだと思ってた。」


「あれが告白のつもりなの?」


「その柚葉の言い方は、告白じゃないな。」


「当たり障りない感じで言ったんじゃないの? 好きだ、とかじゃなくてさ。」


「あー。気になってるとか、いいと思ってるとか、そんな感じでしょ。」


「なんで分かるのよ。」


「少なくとも柚葉よりは経験あると思ってる。」


「私たちどんだけ合コン行ってると思ってんのよ。」


「場数が違うよね。場数が。」



今日の夕飯はオムライス。お子様ランチみたいに可愛いらしく旗まで付いてる。なのに話している内容はこんな感じだ。



「でもやっぱり正統派だったでしょ?」


「そうだね。」


「だから言ってるじゃない。熊は良い奴だって。」


「そんなのは分かってるけどさ。それよりも私3人に言いたいことあるんだけど。」



私が食べる手を止めて3人を見ると、3人も私のことを見ていた。



「私の情報どこまで熊に漏らしてんの。」


「それはさ、」


「ねぇ、だってさ、」


「熊が言うんだもんね、」


「仕方ないよ、」


「うん、仕方ない、」



3人はバツの悪そうな顔をしながら、もごもごと話していた。



「もうこれ以上やめてよ。」


「柚葉が合コンに来ればいい話なのよ。」


「そうそう。そしたら熊に柚葉のこと報告なんてしなくていいんだから。」


「何? 私のせいにするの?」


「そういうことじゃない。これは私たちが悪い。ごめんね。」



朋がまともで良かったよ。そういうとこは意外と理解してくれる朋。悠梨亜と麗奈は責任逃れが多いけど。



「頼むよ、もう。私もちゃんと考えるからさ。」



私の言葉を聞いた3人が、ニヤニヤした顔で嬉しそうに私を見ていたのは、私は知らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る