30


「最近どうよ?」



1番聞かれたくない時にそうやって聞くんだもんな。目の前にいる魚は、だらだらと眠そうな目をしながらお酒を飲んでいた。


久し振りの魚との夜勤で、そのままランチ。この光景も久し振りだった。



「なんもないことはない。」


「そうか。楽しい?」


「全然。苦しいかも。」


「それ楽しいんだよ。いいね。」


「私の苦しさ知らないから。」


「そうだな。俺には分からない。」


「逆にどう? 最近。」


「変わらない。何も。何が起きて欲しいくらい。」


「そっか。あげようか?」


「貰おうかな。」


「あげるよ。」


「ありがと。」



頼んだ料理がテーブルの上に並んでいるけど、進むのは飲み物だけ。というか、お酒だけ。それから会話になっているような、なっていないような会話をだらだらと続けている。


朝、会社で出勤してきた桃に会った時に、自分の中で少し気まずい気持ちになった。顔には出ていなかったと思うけれど。そんなことを思ってしまっている時点で、もう切るべき相手なんだろうな。


桃もあと2週間くらいか。そしたら顔を合わせることなんて無くなる。それまでの我慢かな。そしてそれまでには蹴りをつけたい。



「桃沢、寂しい?」



急に桃の名前が出て来るから、驚いてしまった。内心ドキドキしながら、他愛もないことを答える。



「そうだね。」


「だよな。」


「もう少しだもんね。」


「桃沢、柚葉のこと好きだと思ってたんだけどな。結局なんも言わんかったのか。」


「は?」



魚は少し笑いながら話していた。


桃から私のことが好きだと話を聞いていたらしい。だけど、最近そう言う話をしなくなったし、私も桃も特に変わった様子が無いから、もうそういうのは無くなったのかなと思った、とのこと。


無くなったというか、私は正当な感情をぶつけられたことなんてない。そんなようなことを言われたことはあるかもしれないけれど、結論的にはそんな関係性にはなれなかった。というか、ならなかった。それを選んだのは桃だ。



「そうなのね。」


「柚葉がさっき言った、なんもないこともないは、桃沢のことじゃないだろ?」


「そうね。」



半分は違う。



「好きな人出来たんだ。」


「好きな人、なのかな。」


「なんだよ。」



こうやって魚にはなんでも話してしまうんだ。


私目線からの熊の話を聞いた魚は、絶対良い奴だろそいつ、と言って席を立って私の肩をバチンと叩いた。



「行け。がんばれ。」



そのままトイレに向かっていく魚。がんばれ、か。なんか、今のどこかで聞いたことあるような流れだったな。頭に悠梨亜と熊が過ぎった。



「こっちも、同じか。」



夜勤明けは独り言だって増えるんだよ。

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