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きっかけは同窓会での再会だったそうだ。私は特に何を話したかも覚えていないのだが、熊はよく覚えていたそうで。
「変わらないね、って話をしたんだよ。俺はそうだねって返したけど、篠原は凄く雰囲気変わったなと思ったんだよ。綺麗になったなって。その時言えなかったけどな。」
そんなにストレートに言われるとさすがに照れる。自分の中ではそんなに変わったとは思っていなかったから、やっぱり、周りから見る私は違うのだろうなと思う。
「だから少し気になって連絡先聞いたんだけど、流石に彼氏いる女の子に連絡送るのもあれかなって思って。そしたら金澤が篠原と一緒に住んでるって聞いて、本当にびっくりしたよね。」
それは私も驚いた。その後、同窓会のように一度だけ悠梨亜も一緒に3人で飲んだけど、そこからは特に何も無かった。私が合コンに行き始めたのも本当に最近の話だし。
「篠原は合コン来なかったからさ。こっそり金澤たちから篠原の話聞いてたんだよ。職場にいい感じの人がいるっぽいとか。最近だと職場の後輩といい感じだとか。」
だから3人ともあんなに熊、熊って言っていたのね。まさか、熊の方から私の話を聞き出していたなんて、それは予想外すぎることだった。
「この間篠原から、元彼から貰ったもの、の話されただろ? あの時、何かあったのかなって思ってさ。会社で金澤に聞いたら、後輩と上手くいってないって聞いて。金澤が俺の背中バチンって叩いて早くしろとか言うんだよ。あいつ本当に乱暴だよな。」
「悠梨亜らしいわ。」
少し笑ってしまった。ということは、私が3人に話してた話は、ほぼ熊にダダ漏れだったってわけだ。
「その後輩とはぶっちゃけどんな感じなの? いい感じなら、俺は身を引く。」
私の顔を少し覗き込むように問いかける熊。どんな感じなのだろうか。私の気持ちは、もう無いかなと思っていたところだ。恋人でもないのに、あの距離感は少し煩わしい気すらする。
「難しい。」
「難しいって答え方、難しいな。」
熊は笑っていた。私の気持ちに1番近い言葉がこれしか思いつかなかった。難しいのだ。私の気持ちも、多分、向こうの気持ちも。
「俺は篠原のこといいなと思ってるから。合コンもほとんど行ってないんだ。篠原が来るのだけ。篠原に会いたいから行ってる。」
遠回りした割には早く家に着いてしまったなと思ったところだった。告白とは少し違うかな。そんな気がする。熊も、そんな顔をしていたと思う。
「また、合コン来てよ。」
「そうね、考えとく。」
熊は手をひらひらさせて、背を向けて帰って行った。今回は何も無いとは言えなかったけど、何も無かったようなものだ。
「やっぱり、紳士なんだよな。」
ひとこと呟いた時に、自分の気持ちがもう決まっているかのような気がした。
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