28
結局無理やり連れていかれた合コンで、今日も、私は熊の相手をしてそのまま2人で抜け出してきた。
「よかったの?」
「うん、いいよ。今日もどうせ金澤のためだし。」
そういえば青って奴が居たな。今日も綺麗にカップリングが出来ていて、見事に私と熊が余り物になっていた。
「いい人居なかった?」
「居ないもなにも、今日は中谷の相手をするために来たようなものでしょ。」
「そっか。そうだったね。」
笑いながら熊が言う。変わらない距離感。少し縮めてみたら何か変わるのかな、なんて思ってしまうほど、何も起きなさそうな距離感。いつもと変わらない他愛もない話。いつも通りコンビニで買ったお酒。今日も何も無さそうだなと感じていた。ここまで来ると、何かを期待したいな、と思ってしまう程だった。
「中谷、全然彼女出来なくない?」
毎度毎度、合コンを開いては私の相手をしてくれるだけの熊が全く理解出来ない私は、その疑問が違う言葉になって口から出てきてしまった。これは聞かなくても良かったことかもしれない。
私のそんな問いかけに、中谷は笑いながら答えた。
「俺好きな人いるからね。」
思ってた斜め上の返答に、変な声が咄嗟に出てしまった私。
「は? 合コンなんて行ってる場合じゃないじゃん。」
「だって好きな人、合コンでしか会えないから。」
「悠梨亜か。」
「違うよ。金澤じゃない。」
「じゃあ誰よ。朋?」
「違う。」
「麗奈だ。」
「違うよ。なんでこんなに一緒に居んのに気付いてくれないかな。」
熊が笑いながら私のことを見る目が真剣だから、私は何故か立ち止まってしまった。気持ちが、追いつかなかった気がした。
「俺本当は同窓会から、ずっと気になってたんだけどね。篠原のこと。」
熊は私の目を見てしっかりとした口調で言った。というよりは、しっかりとした口調で言ったように聞こえただけなんだと思うけれど。私の耳にはとてもクリアに聞こえたのだ。
「そう、なんだ。」
精一杯で出た言葉がこれ。何かあってもいい、なんて思っていたりしたけど、思っていた以上に正統派で来られたから、さすがに戸惑っていた。熊ってこんな顔するんだ。
「金澤に、というか3人になんだけどね。朋ちゃんと麗奈ちゃんにも怒られてさ。この間、篠原来なかった合コンあっただろ? あの時に怒られて。早く行かないと、年下に取られるぞ、とか言われてさ。」
あの女ども… 3人とも、絶対に許さない。余計なお世話だって何度も言っていたはずなのに。
「ねぇ、遠回りしてもいい? ここまで言ったのに、ここでさよならは流石に無いかなって。」
私は頷いてから、またゆっくり歩き始めた。
隣に並んでゆっくり歩く、熊の話だけでも聞こうと思った。良いやつなことは、私が一番よく分かってるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます