25

またお酒が出てきた。明日は休み。目の前には熊。そして、スマホの画面に映し出されてる桃の文字。メッセージが送られてきていたのは気が付いていたけど、それも見ないでいたら電話が来てしまった。私はこれもスルー。



「誰と飲んでたの?」


「職場の人たち。」


「そうなんだ。申し訳ないね。そっち戻る?」


「いや、いいよ。同居人が体調崩したって言って抜けてきたから。」


「そっか。」



1杯目はビール。さっきも1杯目で飲んだのに、またビールを飲んでしまった。2杯も飲んだらお腹いっぱいになってしまう。



「中谷は抜けて来てよかったの?」


「うん。まあ、質の悪い合コンだった。」


「それどういう意味?」


「男も女も寄せ集めって感じだったから。」



悠梨亜が青に会いたいから、という理由で開いた合コンらしい。だから、それ以外は適当に連れてきたとのこと。悠梨亜も同じで適当な人を呼んだ結果、飛んだ女がいたらしい。



「別にそれ合コンじゃなくても良くない?」


「そうなんだけどね。金澤がそういうんだから仕方ない。」


「なんか、悠梨亜に弱みでも握られてるの?」


「そういうことじゃないけど。いつも、というか、割と助けてもらうことが多いから。俺が出来ることはしたいというかね。」


「ふーん。」



熊から聞く悠梨亜の話は新鮮だった。職場での悠梨亜は仕事が出来て、みんなから頼られるお姉さんみたいな存在らしい。確かに面倒見がいいことは知っているけど、どこ行ってもお姉さんをやっているなんて、悠梨亜らしいな、と思った。



「篠原は?最近仕事どう?」


「普通だよ。特に変わりなく。」


「仕事以外も?」


「そうね。特に変わりなく。」


「そうか。合コン行ってんの?」


「行ってないよ。中谷がいるやつだけ、無理やり連れて行かれる。」


「そうなの?いつも嫌々来てるもんな。」


「うん、嫌だよ。行きたくない。」


「何が嫌なの?」



合コンが嫌な理由なんて山ほどありすぎて伝えるのに口ごもってしまった。



「知らない人と飲むのが嫌。」


「そもそもじゃん。」


「それから、」



ポロポロと愚痴をこぼすように話す。その間にもスマホの画面に2回ほど桃と表示されていたが、今は見ていなかったことにした。


2時間くらい話をして、いつも通り歩いて送って貰った。今日も特に何も無かった。


部屋に戻ってから目に止まってしまった猫のネックレスは、真っ暗なうちに私の知らない場所に捨てた。今は酔っているから。明日にはそんな記憶なんて無くなっているはずだから。

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