23
職場の飲み会は、ペースを落とすことなく定期的に行われていた。大体月に2回ほど。行ける時もあれば行けない時もあるけど、大体のものは参加していた。
「今月で終わりか。俺寂しいよ。」
また始まったこの会話。先月も話してたっていうのに。今日は魚の隣。夜勤明けで来た魚はいつもよりペースが遅かった。
「僕も寂しくなってきました。」
「次の仕事決まってるの?」
「一応決まってます。」
「じゃあすぐに新しい仕事か。」
「辞めてから1ヵ月くらいは休みますよ。少し遊ぼうと思ってます。」
「そっか。その間は飲みに行き放題だな。」
「そうですね。いつでも誘ってください。」
男たちの会話を聴きながら、私と向日葵でグラスや皿を片付けていた。
最近の桃は、晴れ晴れした顔付きで仕事をしていて、本当に辞めるんだな、と感じることが多くなった。私としては、寂しいなんて感情はとっくに消えていた。それは、辞めても会えるだろうとかそんなことが理由なんかじゃなくて、職場で会いたい関係では無くなってしまったからなのだと思う。
向日葵はなんでもない振りをしているだけで、実は同期が辞めることを誰よりも悲しんでいるのだと思う。だから魚がいつも酔っ払ってするこの話を、私は一刻も早く辞めて欲しいのだ。可愛い向日葵の悲しむ顔は見たくない。
「はい、もうその辺でその話は終わり。」
「柚葉も寂しいだろ?」
「うん、そうね。でもいつでも飲みに行けるでしょ。今日は酔いが回るのが早いね。」
「今日本当に忙しくて、上がるの遅かったんだよ。」
ようやっと話が変わって、最近の仕事の愚痴を話し始めた。これはこれでいい話では無いんだけどね。魚の機嫌が変わったのを見て、トイレに行こうと席を立った。
すると、スマホに着信が入った。相手は悠梨亜だ。
「なに?」
「柚葉、早く来て。」
「はい?なに?」
「今、合コンしてんの。人数足りないから来て。」
「無理だよ。私だって飲んでる。」
「いいから早く来て。場所送るから。熊が待ってるよ。」
そう言って一方的に電話を切られた。これは、行かなかったら家帰れなさそうだな。トイレに行ってから、席に戻って荷物をまとめた。
「ごめん。同居人が具合悪いって言うから帰るね。」
そう言って魚にお金を渡して店を出た。
最後に目が合った桃が口パクで「うそつき」って言ったのを私は何も無かったかのように見ていないことにしてしまった。
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