21
「今日はいつもと違う感じで、元気がないね。」
桃から送って貰って、家に帰ってから私はしっかり眠ったのだ。そして半ば強制的に朋に起こされて、ここに無理やり連れて来させられた。私の隣にはまた熊がいて、私はまた席の端の方でちびちびとお酒を飲んでいる。
さっきまで頭の中はネックレスのことでいっぱいだった。なんなら、今もいっぱいだ。だから余計なことなんて考えられないはずなのに、今隣で私に向かって問いかけた熊の声だけはしっかり私の耳に入ってきた。
「そうね。今日が今までで一番無理やり連れてこさせられたよ。」
「そういうことね。いつも夜勤明けなのに大変だね。」
「分かってるならセッティングしないで欲しいけど。」
「知ってる?金澤って怖いんだよ。」
「ああ、知ってる。」
結局あのネックレスは私の部屋にまだ置いてあるまま。ゴミ箱に捨てるのもなんか違う気がして。こういうのの処理って難しいんだなと心から感じた。大切なもの、というか、人からもらったものってどうするのが正解なのだろうか。
「元カノから貰ったものってどうしてる?」
「なに、急に。」
考えすぎて、口に出してしまったようだった。隣の熊は笑いながら私の言った言葉に答えを出してくれた。
「俺は、あんまり気にしないかな。いるものは取っとくし、いらないものは捨てる。」
いるもの、いらないもの、とかいう概念じゃないんだよな。
自分から聞いておいて思った通りの答えが来ないと納得いかない。自分って本当にわがままだな、と思ってしまった。
熊の定義に当てはめて考えてみるけど、ネックレスっているものなの?それともいらないもの?使ってないから、いらないもの?
「でも、あれだな。アクセサリー系は捨てるかもな。捨てる時、なかなか辛いけどな。」
笑いながら言ってた熊に、心の中でその答えが欲しかったんだよ!って思いながらも、表情は変えずに「そっか、」なんて適当に返事を返してしまった。素直じゃないね、本当に。
「辛いことを思い出すことも無いし、いらないものなんて無理に見ることないだろ。どうしたって、目に入ったら思い出すんだから。よかったことも、悪かったことも。」
今のは、いつもの熊と違う気がした。
「なんか、どうしたの?」
「どうもしてないけど?俺だって真面目な話くらい出来るんだよ。」
そう言って笑った熊はいつもの熊だった。もしや、演技とか上手いタイプの人なのかもしれない。
今日も終電なんて無くなって歩いてふたりで帰ったけど、いつも通り“なにか”なんて、何も無かった。
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