17

夜勤明けの日の翌日、桃から一緒に出掛けないかと誘われた。特に用事も無かったし、断る理由も無かったから行くことにした。桃曰く、これはデートらしい。そういえば柚葉さんと出掛けたこと無いよね、という話からそうなった。私的には、桃はそういう関係の友達という括りになっているのだからデートするなんておかしな感覚だった。


待ち合わせに着いて辺りを見回すけど、まだ桃の姿は無かった。すぐ近くのベンチに座って待つことにする。


会社に出勤する時は絶対に着ないスカート。これはなんとなく私の中で勝手に決めていることなのだけれど、仕事の日はスカートを着ないようにしている。逆に言えば、休日や遊びに行く日にはスカートしか着ない。それが自分の中の切り替えのスイッチにもなっている。だから今日は、完全休日。



「お待たせ。」



頭の上から降ってくる桃の声。顔を上げると、桃が私に向かって手を差し出した。



「はい、行こう。」



私はその手を取らずに、自分で立ち上がった。



「恋人じゃないんだから。」


「柚葉さん、そういうの気にする人?今日くらい良くない?」


「良くないね。」


「冷たいなー。」



結局ふたりで並んで歩く。隣は私よりもずっと身長が高いのだ。手は繋がない。桃と日中に手が繋がれることなんてこの先も一生無いと思う。


桃に連れて来られたのは映画館。映画なんて久し振りだな。



「この間見たいって言ってたやつ。僕も見たかったんだよね。」



映画の話なんてしたっけ。そんなことを考えている間に桃はチケットを買ってくれた。ふたりでチケットを持って中に入る。席は端の2人席。



「私映画の話なんてした?」


「したじゃん。先月くらい?」


「そうだったっけ。」


「いつもの4人での飲みの時だよ。柚葉さん行きたいって言ってた。」



そんなこと言ったのかな。全然覚えていない。でも、確かにこの映画は見たいと思っていた。休みの日になかなか出かける気にならないから、結局行けずじまいなんだろうなと思っていた。



「僕も見たかったんだけど、一緒に行く人いなくてね。まだやっててよかったよ。柚葉さんと来れたし。」



桃の横顔は嬉しそうに笑っていて、私も何となく笑顔になった。やっぱり年下、というか。可愛いんだよな。私にとっては後輩くんなんだよ。


買っていたドリンクを桃とは反対側に置いた。映画館が暗くなって上映が始まる。


桃の左手が私の右手に少しだけ触れていたけど、それ以上になることは無かった。

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