14
待ち合わせは居酒屋だった。先にひとりで入って、仕事終わりの桃を待っていた。さっきからずっとお水。先にひとりで飲むのはなんか違うと思っていたから。それに、昨日もまあまあお酒を飲んだせいであまり飲む気にならないというのがどちらかと言えば本当の理由。
同居人のグループチャットの方ではまた私に対して祝福の言葉が何故か送られて来ていて、また画面に向かって呆れた顔をしてしまった。
みんなの会話を見る限り、今日は悠梨亜と麗奈も帰らないみたいだから、きっと朋も誰か見つけて帰らないんだろうなと思った。
「おまたせ。」
スマホを見ていたら、向かいから桃の声が聞こえて顔を上げた。あまり疲れてなさそうな顔をしているから、若くて羨ましいな、なんて思ってしまった。どうせひとつしか変わらないのに。
「飲んでないじゃん。何飲む?」
「桃沢くんと同じの。」
「えー、悩んじゃうな。」
その後はお酒を飲みながら仕事の話とか、それから、そうだな、仕事の話しかしてないかもしれない。
「ふたりで飲むのは初めてだね。」
「そうだね。」
「明日仕事?」
「そうだよ。」
「あ、じゃあ僕とだ。」
「そうなのね。じゃあ、早く帰ろうね。」
「このまま一緒に出勤するっていうのも有りじゃない?」
桃が少しいたずらっぽく笑ったその顔に私は少しだけキュンとした。
そう、キュンとしたのだ。
「悪い子の顔してるよ。」
「僕悪い子じゃないよ。」
普通の顔して誤魔化したけど、心のうちは落ち着きなくて、そうやってやっぱり期待してしまっている自分がいるんだな、と改めて感じた。
「でも、少し早めに寝た方がいいよね。僕、もう少し眠いし。」
そう言ってもう1杯お酒を頼む。私は目の前にあるおつまみを食べながら桃のことを見ていた。
この後の展開は、もう流れに任せる。
だって、あの目に誘われたら私はもう、
「柚葉さん?」
「ん?」
「大丈夫?」
「大丈夫よ。私も少し眠いかも。」
「そっか。じゃあ、そろそろ終わりにしよっか。」
桃が頼んだ最後の1杯。時計を見るとふたりでの滞在時間はまだ2時間も経っていなかった。桃が少しハイペースで飲み始めたから、私はまだ残っているおつまみを片付けようとしていた。
今、余ってる分のお酒を全部飲んでもまだ酔うには早い気がした。
私も少し眠いかも、なんて言葉を言うのもやっぱり少し早かったかもな。
そんな小さな後悔をしたところで意味なんてないのだけれど。
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