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熊は私に全く興味が無いみたいに、ただ送るだけ送ってくれた。しかも、ふたりで歩いて帰ったのに。女の力なんて弱いんだから、男に腕を引かれて連れて行かれたら勝てないのに。というか、熊に連れて行かれたら断らなかったかもしれないのに。なんて考えてしまうほど、健全過ぎる熊に少し呆れた。
自分の部屋で呆然としながら昨日の熊との帰り道のことを考えていた。別の意味ではとてもいい時間だったのだと思う。学生時代はあんな風に話せていなかったと思うから。大人になってお酒を飲んだその後、そのままの足でコンビニに行ってまたお酒を買って、ふたりで飲みながら、談笑しながら、夜の静かな道をフラフラしながら歩くなんて。あの時はそんな未来全く見えてなかっただろうな。
楽しかった。楽しかったけど、一晩経った今考えれば、そりゃねーよ、って感情になった。職場の後輩とすら何かしらがあったのに、こっちでは何も無いんだもんな。そして思う。これは果たして私が悪いのか、熊が悪いのか。
「ふたりとも悪いか。」
口に出してしまうほど、結論が出るのが早かった。仕方ないな。ふたりとも悪いと思うよ。私が悪い要因はたくさんあるけど、熊もきっとあるんだよ。私の頭で思い付くことは無いけど、きっとあるんだよ。
潤いが無くなりそうな溜息をひとつしてから、もう一度横になった。一生彼氏出来なかったらどうしよう、とか悲観的になりそう。こんなことを一瞬でも考えている時点で、もう悲観的なんだろうけれど。
近くにあったスマホを見ると、桃から通知が来ていた。
『今日遅番なんだけど会える?』
私はすぐにトーク画面を開いて返信をした。
『会える』
瞬時にそう送信した私自身に呆れてしまった。
「これじゃあ猿と一緒だよ。どんだけ飢えてんだよ。」
ボソボソひとりで自分の悪口を言いながら、顔をしかめる。欲に素直で、本能に逆らえない自分自身が気持ち悪くて凄く嫌だった。
そして、無意識的に熊と桃を比べている自分が一番気持ちが悪かった。そんなことしたって誰の得にもならないし、どうでもいいのに。熊も桃も嫌いになりたくないのに、自分のくだらない気持ちのせいで嫌いになりそうなのが本当に嫌になる。
大体、桃と会うだけでそういう展開になるなんて誰が保証してるんだって話なんだよ。毎回そうだなんて誰が決めたんだ。そうやってすぐに欲のことしか考えないんだから。全く、
…私、童貞なのかもしれない。
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