11
夜勤明けの日、仕事が終わってから相方だった桃にランチに誘われた。職場の近くのファミレス。なんとなく深夜テンションでふたりとも半分眠気に襲われながら料理が来るのを待っていた。
「眠そう。」
「疲れたもん、朝。」
「確かに、今日は大変だった。」
お水の入ったグラスを桃の方に少し傾けると、桃は少し笑って私のグラスに自分のグラスをコツンとぶつけた。
「何これ。」
「お疲れ様、ってこと。」
「ああ、なるほど。じゃあ、僕も。」
今度は桃が自分のグラスを私に傾ける。そしてグラスのぶつかり合う小さな音。なんで2回もやったのかは分からないけど、これも夜勤明けでおかしなテンションになっているからだろう。
料理が来てから、私はずっと気になっていたことを聞いた。今なら聞けると思ったから。
「あの日、何で誘ってくれたの?」
「柚葉さんが可愛かったから。」
「どこにそんな要素があったの。」
「というか、ずっと可愛いと思ってて、でも付き合うのとかハードル高そうって思って、だからと言ってそれだけ誘うのも違うかなと思ったんだけど、僕会社辞めるし、このタイミングならワンチャン行けるかなって思って誘った。」
長い一文を話す桃。ダラダラしている感じが、眠さが伝わって来るようだった。
「付き合うとかも考えてたんだ。」
「うん。でも柚葉さん、特定の人作らなそうって思ったんだよね。」
「だからそれだけならって思ったの?」
「そう。そしたら本当に来てくれて、僕本当に嬉しかったからね。誘った時なんて内心バクバクだったんだから。」
桃はハンバーグを食べながら私とは目を合わせずに話していた。そんな話なんてほとんどしてないのに、特定の人作らなそうなんて思われてたのはどうしてなのだろう、と考えてしまった。
「柚葉さん、僕のこと嫌いになった?」
「なるわけないでしょ。」
「よかった。嫌われたらどうしようかと思った。」
そう言って私に向かって笑う桃を見て、私も少し口元が緩んでしまった。誘われれば断る理由がない限りは、また行くと思う。朋が言っていた、顔とか性格とか相性とかはまだ分からないけど行ってしまうと思う。嫌な存在ではないことは確かだと思うし、私の中の穴が空いていた部分を少しでも埋めてくれている感じがすることも理由の一つだと思う。
お腹いっぱい食べてから、テーブルの上には空いたお皿だけになったのを見て、私は欠伸をしてしまった。やっぱりなんだかんだ眠いんだよな。
「今日は僕が出すね。」
「そんな、」
「いいから。だから、また誘っていい?」
私は首を縦に振るしかなかった。嫌、なんて言えないもんね。桃が荷物と伝票を持ってレジに向かったのを見て、私も急いで帰る準備をした。
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