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自分ってこんな感じだったけ、と思うくらい。私じゃないみたいな時間が過ぎていった。彼には背を向けて自分で自分の顔を隠してうずくまっていた。恥ずかしい。
「何してるの?」
桃沢くんは私に敬語を辞めた。ずっと前から仕事じゃない時は敬語なんて使わなくていいよと言っていたのだが、一線超えるまでは無理だったんだな。
「恥ずかしい。」
「何、今更。」
そう言って私の隣で笑いながら、私の腰に腕を回した。また首の後ろに当たる唇の感触。擽ったい。
「可愛かったよ。」
私の耳に触れる声。そんなことを言われるとまた恥ずかしくなる。よくそんな恥ずかしいことを普通に言えるな、と感心してしまった。私は膝を曲げてさらに蹲った。
あの飲み会でのノリだと思っていた、私に向けての「可愛い」は本当の言葉だったのかな、とか考えてしまった。かと言ってこの感じは恐らく、お付き合いする流れではないと思う。何度かしか経験はないけど、何となく分かるのだ。次もあるのかな。
一瞬、職場での関係性もあるし、なんて考えが過ぎったけど、そういえばもう来月には退職するって言ってたな。だから私誘われたのかな。可愛いとか、したいとか、そんなことを言われるだけで、彼の真理なんて何も分かってないな、私。でも、そういう友達ってそんな感じだった気もする。
「柚葉さん、僕お腹すいた。」
背中に密着している彼の素肌。話すと彼の胸の辺りが震えて、私の背中にそれが伝わる。変な感覚。そして、歳下っぽい自由さ。
「なんか食べようか。」
「うん。食べよう。」
布団で体を隠しながら起き上がると、桃沢くんは私の頬に触れてから自分の服を着始めた。私も自分の服を拾い集める。ダラダラと服を着ていると、隣から優しく回る腕。私がシャツに腕を通すと、桃沢くんが私の正面に来てボタンを止めてくれた。なんかもう、尽くされてるみたいで可愛く見えてきた。勘違いしそう。
「柚葉さん、何食べたい?」
スマホでデリバリーの画面を開きながら私に見せてくる。体の半分は私に預けてきていて、久し振りに感じる服越しの温もり。
「僕、ガッツリ食べたいな。飲み直す?」
「任せるよ。好きにしな。」
「じゃあ、飲み直そう。」
「いいよ。」
「食べたいものは柚葉さん決めて。」
スマホを渡されて、右の肩に顔を乗せて来る。任されると悩むんだよな。適当にガッツリ系のやつを選んで頼んでからスマホを返すと、桃沢くんは私にくっついたままお酒を頼んでいた。
「じゃあ、届くまでの間、ね。」
「え?」
驚く間もなく、また直ぐにベッドの上で重なる。
なんか、ひとつしか変わらないのに若くない?
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