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みんなのことを改札で見送った。それからさっき見送った後輩くんと合流した。自分でも分からない。なんでいい返事なんてしてしまったのか。
「僕、この辺あまり分からないですけど、」
「いいよ。」
妙にお姉さんぶってしまって、自分に嫌気がした。
こんなのご無沙汰にも程があるほど、本当に久し振りの事だった。男が欲しいとは思っていたものの、まさか職場の後輩とそんなことになるなんて、そんなのは考えてもいなかったことだし。
建物の並ぶ場所に着いてから、後輩くんの方を見てもう一度確認するように目線を送った。
すると、後輩くんは私の腕を引いて1番手前の建物に入った。私は腕を掴まれたまま、一歩後ろに下がって後輩くんを見ていた。
「篠原さん、もっと大胆なんだと思ってました。」
「知ってるでしょ?久し振りなのよ。本当に。」
部屋に入って、荷物を置いてから一息つく。後輩くんがシャワーを浴びる準備をしている背中をぼーっと眺めていた。
桃沢将弥。後輩くんの名前。普段は桃沢くんと呼んでいる。顔は良い方だと思うし、かなり優しいし、先輩をたてるのが凄く上手。私の1つ下。1年前に彼女と別れた。今までセフレは居たことあるけど、経験人数がそんなに多い訳では無い。彼のプロフィールで私が知っているのはこれくらい。職場の先輩後輩だから、知りすぎてるくらいの情報量だと思うけど。合コンで知り合うような何も知らない男よりはマシか。
「篠原さん、一緒に入ります?」
「いや、先にいいよ。」
「じゃあ、お先に。」
ここに来る前に寄ってもらったコンビニで買った水を飲みながら、バスルームに行く桃沢くんを見送った。
そして、スマホで同居人のグループチャットを開いて一言、緊急事態、と送った。数秒も経たぬ間に、既読が2も付いた。多分どんな話か察したんだろうな。悠梨亜からすぐに、誰?、と来た。話が早すぎるのよ。
『後輩くん』
『うわ、ノーマーク』
『まさかのそこ』
『私誘われたんだけど』
『許したのウケる』
『どうしよ』
『ホテル久々過ぎて』
『若い男じゃん』
『楽しんでな』
『柚葉遂に男出来たね!』
『おめでとう』
『おめでとう!』
『帰りはいつになってもいいからね』
麗奈も早々に入ってきて、3人に何故か祝われる私。画面に向かって溜息を吐いてから、ありがとう、と送ってスマホを閉じた。
ふかふかのベッドに落ち着いた照明。この部屋は割と普通なんだな。テレビ台の引き出しを開けると思っていたようなものが入っていて、普通の部屋じゃない、と思ってしまった。
その後は桃沢くんが戻って来るまで、この後の展開を緊張しながら待っているだけだった。
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