7
後輩くんが職場を辞めると聞いた。先日の仕事で相方になった時に伝えられたのだ。来月末にはもう辞めるとのことだった。一緒に飲みに行っているメンツには少し早めに伝えるとのことで、私が最初に伝えられた。なんとなくやっぱり寂しい気がした。職場のあのメンツは私にとって学生時代を思い出させてくれるような、そんな楽しいことを一緒に共有出来る友達のような存在だったから。辞めたからといって一緒に飲みに行かなくなる訳では無いと思うけど、会える回数が減りそうで寂しかった。
「まだ2年でしょ?俺、寂しいよ。可愛い後輩が辞めちゃうの。」
魚はいつもよりもペースが早かった。気持ちは分からなくもないけど。魚の向かい側に座っている私は、グラスを上手いことずらしたりしながら、水も飲むように促した。明日仕事なんだから、お酒が残ったら困る。
魚の隣に座っている向日葵も、同期が辞めることにショックを受けているようでお酒がなかなか進まずにいる。向日葵の顔を表すとしたら、しょんぼり、っていう感じ。今日はなんかあまり空気が良くないな。
「なんでそんなに暗くなるのよ。やめてもいつだって会えるでしょ。私この場所好きなんだから、楽しくない飲み会にしないでよ。」
私がなるべく明るく言うと、魚が、そうだな、と言っていつものテンションでみんなに声をかけ始めた。
向日葵も、元の調子に戻ってきた頃、内心ほっとした私は後輩くんの方をチラっとみた。
「篠原さん、ありがとうございます。」
小声で私にしか聞こえないように後輩くんが言うから、私は笑顔で、大丈夫だよ、と答える。どうも向日葵と後輩くんの同期コンビは可愛くて仕方ない。
「え、彼氏出来た?」
「はい、出来ました。」
魚が急に大きな声を出すから何かと思ったら、ニコニコ嬉しそうに向日葵が答えていた。そこからは魚を筆頭に質問攻め。どこで出会ったんだとか、写真見せろとか。私も時々質問しながら聞いていた。向日葵がずっと嬉しそうな顔をしていて、こっちまで幸せが伝わってくるようだった。
「柚葉もいい男いないの?」
さっきまで向日葵の話を聞いていたと思いきや、急になぜか私に飛び火が来た。話の流れが早すぎて追いつかない。なんで私の話題になるのか。
「柚葉可愛いのにな。な、そう思うだろ?」
「可愛いっすよ。本当に。」
また後輩くんに向かって聞くから、後輩くんもそうやって言うしかないんだろう。この間もそれ聞いたし、と思って、もういいから、と魚のことを宥める。
しばらくするとまた向日葵の話に戻った。酔っ払いって本当に面倒臭い。壊れたテープみたいに同じことばかり話すんだもの。
魚が向日葵との話に夢中になっている時、隣から小さい声がした。
「篠原さん、この後どうですか?」
少しドキッとした。
本当に他の人には聞こえないような声で聞こえた一言。
嘘だ。
私はなるべく冷静を保つように返事をした。
「そんな小声で言ったら、本気みたいじゃん。」
「本気ですよ。本気です。」
この時の後輩くんの顔は多分ずっと忘れないと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます