6
時間を気にしていたのは私だけだったようで、終電なんてものは気付けば無くなってしまった。ここから歩いたら家まで30分はかかるっていうのに。タクシーで帰るしかないか。
私はテーブルの1番端にいて、誰とも話さずにひとりでゆっくり飲んでいた。結論から言うと、あまりいい人がいなかった。それに、やっぱりこういう場所は向いていないと思った。でも、他の3人が楽しそうにしているから、空気を崩さないように、上手い事立ち回れるように少し頑張っていた。
「篠原、大丈夫?」
熊がちょいちょい私のことを気遣ってくれるけど、この男もやっぱり昔から無しだよな。優しさだけは受け取っておく。私の隣に座った熊にお礼を言う。
中谷誠。通称、熊。最初の印象はチャラくて近付きにくかった。高2の時に一緒に文化祭の委員をやったのをきっかけに少し話すようになった。クラスの中心みたいな存在だった熊のおかげで助けられたことも沢山あった。そんなこともあってか、最初の印象よりはマシになったのかもしれないけど、とは言えサッカー部に所属していたフィルターもあってかなりチャラかった印象が抜けなかった。私にとっては同じ委員会ということ以上でも以下でもなかったのだ。
「麗奈ちゃん、久し振りじゃない?」
「彼氏と別れたのよ。」
「そういうことね。金澤と朋ちゃんは相変わらずだね。男ロックオンするの早すぎ。」
「ふたりとも可愛いからね。」
「篠原も来るの珍しいね。」
「無理やり連れて来られたの。」
「彼氏いないのか。」
「いないよ。いいなと思う人がいない。」
「ここでも見つからなかった?」
熊の方を見ると、ニコニコしながら私のことを見ていた。
「残念ながら。」
「俺も無し?」
「ごめんなさい。」
「うわ、振られたわ。」
笑いながら背中の壁に凭れる。逆に、有りなんて言うとでも思ったのかしら。チャラいだけならまだしも、顔もタイプじゃない。
「でも、篠原って高校の時からガード硬かったよな。」
「そんな事ないよ。」
「そんな事あるよ。サッカー部の男何人か振ってるだろ。」
「何人も振ってない。2人くらい。」
大体、サッカー部っていうのが無しなのよ。あんな陽キャの集団みたいな男たち。そんな人たちに、なぜ私が告白なんてされていたのかが分からない。
あ、聞いてみればいいのか。
「私なんで好かれてたんだろ。」
「篠原、可愛いって人気だったよ。サッカー部の中ではかなり上位。大人しそうなところが逆に良かったんじゃね?」
「その言い方は、中谷は私のこと好きじゃなかったのね。」
「そういう事じゃないよ!俺も可愛いと思ってた。」
「ん?」
私が熊のことを見て問い詰めるように聞くと、ごめんなさい、と一言言った。最低な男。
「女なら誰でもいいのね。」
「高校の時と今は違うだろ。今の篠原の方が俺は可愛いと思うよ。」
本当に、モテる男ってのは口が上手いんだから。私はグラスの中のお酒を飲み干して、帰る、と一言立ち上がった。熊も立ち上がって、送る、と一言言って、私と一緒に店を出た。
一緒にタクシーに乗ったけど、本当に送ってくれただけで何も無かった。家の前で熊の乗ったタクシーを見送って玄関に入った。
「意外と良い奴じゃん。」
ちょっと熊のことを見直してしまった。
「でも、無いな。」
少し笑いながらひとりで呟いた。
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