第19話 本命

「タークィン、この坊主が騎士と一緒にダンジョンに来たとか言ってたんだけどよォ、予定ではケイ1人だッたはずだよなァ?」


「そうですね。来たのは“近衛騎士団の新入り”エミリア・レンブランと、“宮廷魔導士”ガルドゥル・リーフィスです。」


「エミリアはともかく、ガルドゥルとやらはァやばそうだなァ。」


「いやむしろ警戒すべきはエミリアのほうかもしれません。エミリアは去年の学生大会の優勝者です。一方でガルドゥルのほうは王城にいた記録はなく戦争に出た記録もありません。ですのでおそらく研究者としての素質を買われて宮廷魔導士になったのかと。」


「ほゥ、戦争に出た記録がないのか。これは計画は中止にしたほうがいいかもなァ。タークィン、坊主を回収してずらかるぞ。」


「なぜです?私がケイを引き付ければ相手にもなりませんでしょう?」


「戦争に出ないっていうのはァ、ただ戦闘向きじャないッてだけじャない時があんだよ。とにかく回収しろ。」




 奇しくもタークィンがユージーンを担ぎ上げたのと、3人が地上に戻ってきたのは同じタイミングだった。




「タークィン!何してる!」


「タークィン、坊主を置いて走れ。今おまえが捕まるのはまずいからなァ。合流はいつもの場所でな。」


「待て!」


「ケイ!追うな!」




 今にも飛び出しそうなケイをガルドゥルが制止する




「お前がグレンゴルドだな?」


「はじめましてのあいさつはねェのかァ?」


「お前には必要ねぇだろ。ユージーン君に何しやがった?」


「なに、ちョッと遊んでもらッただけだよォ。」


「グレンゴルド、今のうちに謝罪の言葉を考えておくといい。俺はエミリアやガルドゥル殿と違って優しくないからな。」


「必要ないでしョ。謝ることになるのはお前らだしさァ。」




 グレンゴルドは腰から剣を抜き体から覇気を発散させる。




「流石は大盗賊だな。エミリア、ケイ、俺が身体強化をかけて援護する。接近戦は任せたぞ。」




 ガルドゥルの声掛けに2人を剣を構えつつ応じる。




「はい!」


「お任せを!」




 まずはエミリアが先頭に立ち斬り込んでいく。2合3合と斬り結んでいきそのうちに競り合い、力勝負になる。




「見た目にそぐわず力があるなァ。」


「そいつはどうも。」(身体強化込みで5分か、気を引き締めないとやばいな。)




 グレンゴルドは手首を返し競り合いの状態から反転させ、首元を横に薙ぐ。読んでいたエミリアはストンッと膝の力を抜きしゃがむ。と同時にグレンゴルド眼前にケイの大剣が迫ってきていた。グレンゴルドは反射で身を反らせ、大剣を避けると通り過ぎたケイの隙だらけの背中を追撃せんと追う。が、本能で剣を背中に回すとガキィンッと剣のぶつかる音が聞こえた。そちらに気をやる隙もなくケイが反転し大剣でこちらを狙ってくる。体を横に倒し右手一本で剣を持ちケイの大剣をはじく。




「なんて馬鹿力だよ。」


「こいつ、そこらの盗賊と一緒にしないほうがいいですね。」


「騎士様の称賛を頂けるとはァ、うれしくて心が震えるねェ。」


「適当言いやがって。」




 次はケイが前衛を張り攻撃を仕掛ける。しかしグレンゴルドは大剣をものともせず少し体を動かすだけで避ける。




「そんな大振りィ当たるわけないでしョォ?」




 グレンゴルドはケイの上段からの振り下ろしを半身を下げて避けると、隙のできた左わき腹を斬り裂こうとする。しかし、ガンッと鈍い音がしたかと思うと剣とぶつかった部分が鈍く光を反射しており、剣を受け止めていた。驚く間もなく本能で横に跳ぶと黒いコートの端を片刃の剣が後ろから貫いているのが見えた。




「そうかァ、お前らスキル持ちかァ。」


「ケイ殿、申し訳ありませんしくじりました。」


「いや、奴の勘がよすぎたというだけだろう。それか、スキルで気付いたとかな。」


「どッちだと思う?」


「少し勘が良すぎる気がしますね。」


「近衛にもああいうタイプいるだろ?あいつと同じ感じがする。」


「いますね、純粋な強さで殴ってくる人。では、スキルではないと?」


「そうだな。だが油断はするなよ?スキル持ちじゃないと決まったわけではないからな。」


「無視すんなよォ。」


「ガルドゥル殿は...仕込み中っぽいな。」


「そうですね、引き続きこっちに引き付けましょう。」


「そんなに無視すんならさァ、こっちから行くぜ?」




 目の前からグレンゴルドが消えたかと思うと、次の瞬間には左からダンッと地面を踏みしめる音が聞こえる。グレンゴルドは今まさに突きを放たんとするところで、剣を間に挟む余裕すらなかった。受ける覚悟を決めた瞬間。




「エルドゴス!」




 グレンゴルドの立っている地面から勢いよく炎が噴き出した。




「あぶねェなァ、おい。」




 グレンゴルドは少し離れた位置に移動している。そこに向かって蒼い炎でできた小鳥が飛んでいくがこれも難なく斬り捨てられる。その瞬間グレンゴルドはその場から飛びのき、斬り捨てられた小鳥が爆発した。




「さすがァ、宮廷魔導士様ァ。油断する隙すらないねェ。」


「お前、な?」


「どうだろうねェ。」


「悪いが俺の魔法は役に立ちそうにない。」


「この時代に2人目ですか?」


「それはだろ?」


「え?」


「おいおい、気づいてんのかよォ?宮廷魔導士やべェな。」


「いや、お前が何かはわかってないよ。ただ人間じゃないってのはな。」


「そうかァ。なら見せてやろう。」




 そういうとグレンゴルドの翠色の目が赤く光りだし、両手の肘から先と両足の膝から下が黒い竜の物に変質する。こめかみからは金の竜角が、背中からは金の竜翼がが生える。




「こんなとこかなァ。正直剣はあんまり得意じャァないんだよねェ。」

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