第20話 スキル
「さァて、第2ラウンドと行こうか?」
「ケイ、あれをどう見る?」
「竜の一種ですかね?ただ、人間の形をとるなんて聞いたことないですが。」
「姿を変える竜なら確かいましたよね?」
「イズメニャトか?あいつは姿を変えるというか色を変えるだけだったろ?」
「さッきから無視してんじャァねェよッ。」
グレンゴルドは、一気に距離を詰め貫手を放ってくる。エミリアは身を捻ってかろうじて躱し、ケイが技を放った後隙を狙い斬り上げる。グレンゴルドは左手で軽く大剣を受け止めると、腕を引きつつ反転し後ろ回し蹴りをケイに打ち込む。ケイはとっさに硬化するも吹き飛ばされる。エミリアは体勢を立て直し背中に切りかかるが、いつの間に生えたのか黒い竜尾がそれを受け止める。
「あ、出しちまッた。」
「硬すぎだろ、これ!」
尻尾で弾くと同時に後ろに跳び、距離を取る。
「これはいよいよまずいかもな...」
そんな弱音すら漏れてしまうほどにグレンゴルドは圧倒的だった。ケイやガルドゥルがいなければ逃げていたと思えるほどに実力差を感じていた。エミリアは、気を抜けばすぐにでも震え出しそうな体を心で押さえつけ剣を構え直す。
「どうにかこうにかッて感じだなァ、騎士様。頼むから逃げ出したりしないでくれよォ?」
グレンゴルドはそんなエミリアの感情を完全に見透かしていた。剣を数合打ち合ったときにはもう見通していた。それと同時に実力を隠していることもわかっていた。だから煽る。彼の騎士の本気を見るために。
エミリアは少し息を吸い、自分の体の境界を意識する。自分の体が周りの空間に溶け合うように、自他の境界を曖昧にしていく。たちまちのうちにエミリアの体がゆらめき、そして見えなくなる。これがエミリアのスキルである。
なおスキルとは、神の恩寵であるとされている。神から与えられるもので、スキルを手に入れることができるかは完全に運任せ。受け継ぐものではなく、成長するにつれ自然と発現するものであるとされている。なので、ユージーンの「いつでも爺に会える権利」も分類上はスキルということになる。ただ、あのスキルはマジで神から直接与えられてるのでそこは他のスキルとは違う。他のスキルはどっちかというと才能と言った方が近く、別に神達も与えようと思って与えているわけでは無い。受け継ぐことが可能な特殊能力もあるにはあるのだが、継承のための条件が厳しかったり限定的すぎるためスキルとは別の括りにされており、アビリティという別の名前がついている。
エミリアは自分の姿を消すと、グレンゴルドに斬りかかった。グレンゴルドは匂いや風のゆらめきや足音などを五感をフルに使って感じ取り、大体のあたりをつけ防御する。しかし、完全に防御するには至らず、いくつかの攻撃は受けてしまう。鱗を一部作り出すことで剣を受け止めるも、それでも痛いことに変わりはないので、剣を運良く掴むことのできたタイミングで蹴りを入れ距離を取る。
「いッてェ、厄介すぎるなそのスキル。」
もちろん返事が返ってくるわけもない。さて、どうしたものかと思案していると一つ妙案を思いつく。グレンゴルドは悟られないように、ケイに向かって突進する。ケイが横っ飛びに突進を避けたのに対し、グレンゴルドは急停止し未だ空中にあるケイの体に蹴りを入れる。追撃しようと踏み込むまさにその瞬間気配を背中側に感じる。グレンゴルドは気配を感じるや否や詠唱を省略して魔法を発動する。一瞬のうちに発動した魔法は光球を生み出し、そしてグレンゴルドの背中で破裂すると周囲は光に包まれた。
「!?」
急に破裂した光球によって周囲の人間は目を潰される。ただ1人を除いて。
目が回復したガルドゥルが見たのはグレンゴルドの腕で貫かれたエミリアの姿であった。
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