第8話 入学試験

 今日は俺の10歳の誕生日。そして、帝国立騎士学校の入学試験の日でもある。


 帝国立学校の入学試験は10歳になった日の午後から行われ、騎士学校、魔法学校、普通学校のどれかを受験することが義務付けられている。騎士学校志望は多いためだいたい毎日50人ずつくらいがそれぞれの都市で試験を受けている。ちなみに、この試験に不合格はない。決まるのは来年の4月から始まる学校でのクラスである。S~Cまで分かれており、Sは1学年に5人いるかどうかってレベルらしい。ちなみに1年で約5万人の入学があるが、それが住んでいる地域によって東校と、西校に分かれる。そのためどちらかの学校にSクラスに入るには単純計算5千倍の倍率である。このことからSクラスが如何にやばいかが、わかると思う。


 親父殿が学校に行ってた時は飛び級があったらしく、教員半数以上の許可が出れば飛び級できたようで、親父殿は入学して1週間そこらで6年まで駆け上がりそこから2年ほど学び、わずか3年で騎士学校を卒業したという傑物だったらしい。そんな親父殿がいるせいで、俺への期待がやばく、もうほんとやめてくれって感じである。俺のやりたい俺つえーを親父殿が20年近く前にもうやっているのだ。なんだそれって感じである。




「ユージーン、学校にいくぞ。」


「はい、父上。」




 うちの家は超都会にあるので、学校までちょい時間がかかる。馬車に乗ってパカラパカラしていると、学校が見えてきた。まだ全然つかないのだがそれでもわかる巨大さ、さすがはこの国で王城に次ぐ大きさを持つ帝国立騎士学校東校である。




「よくぞいらっしゃいました。ゴネリル様、ユージーン様。ささ、こちらへ」


「やめろ、ドロシア。ここではユージーンは一生徒だ。教師のお前が頭を下げるな。」


「お変わりないようで。かしこまりました。では、ユージーン君。試験会場へと行きましょう。」


「頑張ってくるのだぞ」


「はい、父上。」




 こうして俺は、ドロシアとかいうおじいさんと一緒に学校の中に入った。ちなみに、ゴネリルというのは親父殿の名前である。ちょいかっこよすぎか。


 学校の中は、ホ〇ワーツ魔法魔術学校を思い浮かべるとちょうどあんな感じだ。もう、石畳ってだけでテンション爆上がり、今にも踊りだしたくなる。うちはカーペットだったからな。廊下のわきには鎧が大量に並べられてたりする。やっぱ有事の際に動き出したりするんだろうか。ピエルトータム・ロ〇モーターとかって。


 そんなことを考えてるとなんか受け付けっぽいところに出た。




「お名前をどうぞ」


「ユージーン・アンブロシアです」




 これ口に出すのまだちょいハズイな。




「あぁ、ゴネリル様のご子息ですね。では、こちらの水晶へ右手をどうぞ。」


「はい...?」


「ユージーン君、これは君の魔力量を簡易的に数値化するものですよ。」




 俺がよくわかってないのを察したのか、ドロシアが説明をしてくれる。


 やっぱ魔力量を測る装置とかあるんだな。測ったことはないがどんくらいあるんだろう?




「はい、大丈夫ですよ。手を放してください。」


「どんくらいの魔力量でした?」


「え、えーと、大変申し上げにくいのですが...だいたい40くらいですね。」


「ドロシアさん、40ってどのくらいなんですか?」


「まぁ、新入生全体でみると中の下ってとこですね。ただ、まぁ、あなたのお父様は30もなかったらしいですから、気に病むことはないと思いますよ。」


「ありがとうドロシアさん。」


「えっと、次は魔法実習の試験になります」


「わかりました、ありがとうございます」




 魔力量中の下かぁ。親父殿が30ないくらいで、おれが40くらい。それならいっそ10くらいでよかったけどね。なんで中途半端に魔力あんのさ。キャラが立たない!まったく。


 で次の試験は何って言ってたっけ?魔法実習?そうか、魔法実習か。ってことは名前から察するに魔法を使ってその出来で判断したりするんだろうな。うん。うん?魔法を使って?




「あ、あの、ドロシアさん。」


「どうなさいました?」


「次って魔法実習ですよね?」


「そうおっしゃってましたね。」


「ってことは多分魔法を撃ってその出来で判断するんですよね?」


「例年通りであればそうですね」


「あの、僕、魔法が50センチ以上飛ばないんですけど...」


「はい?」


「いや、だから、魔法が自分から50センチくらい離れると消えちゃうんですよ」


「な、る、ほど。初めて聞きましたね」


「これってどうやって成績つけるんでしょうか?ゼロ点ですかね?」


「放出系の魔法以外は使えないんですか?召喚系や、呪縛系は?」


「身体強化でギリですね」


「うーーーーん...前代未聞すぎてわかりませんが試験官に素直に言ってみるのはどうでしょう?多分戦闘実習のほうに点数を偏らせたりはできると思いますが...」


「わかりました、伝えてみます。」




 ちなみにこのことをじじぃに聞いたところ、「超レア体質じゃぞ、喜ぶといい」とかぬかしてた。だからたぶんこれ治んないのだ。身体強化できるだけましだが、魔法実習どうすんの?


「えーと、ユージーン君だね。あぁ、ゴネリル殿のご子息なのか。さぁ、君はどんな魔法を使うんだ?」


「えっと、あの、その、身体強化しか使えなくて...」


「ん?」


「その、まともに使える魔法が身体強化しかなくて」


「え、身体強化以外全部だめなの?」


「発動はできるんですが、ちょっとしか飛ばなくて...」


「ちょっと?一回見せてもらってもいい?」


「わかりました。あいうえお、よし、“火球ファイヤーボール”!」




 俺の詠唱と同時に召喚されたちっちゃい火の玉はひょろひょろっと進むと、50センチくらい進んだところで唐突に消滅した。




「こんな感じです」


「なに、これ?」


「僕にもわかりません」


「でも、身体強化はできるんだよね?」


「そっちならいけます。」


「わかった。こっちはいったん保留にして上に掛け合ってくるから君は戦闘実習のほう行っておいで」


「はい。」




「許可してくれるといいんですが」


「まぁ、ここは騎士学校なので最悪剣の腕さえよければある程度のクラスには入れますよ」


「そっかぁ」






 指定されたグラウンドにやってきた。




「おぉ!君がユージーン君か!話は聞いてるよぉ!」


「あ、ほんとですか?よかった...」


「どうやら、身体強化の達人なんだろう?お手柔らかに頼むよ」


「え!?どこからそんなこと聞きました!?」


「なんか、放出系の魔法はからっきしだが身体強化は超一流なんだろう?戦闘実習の成績の一部を魔法実習の成績に組み込んでくれって言われたよ。あ、バスターソードでいい?」


「大丈夫です。じゃなくて僕は身体強化も...」


「問答無用!」




 試験官と思しきおっさんが左腰に剣を構えながら突進してくる。おそらく腰から横に薙ぎ払うんだろう。おっさんが剣を抜くのに合わせ、おっさんごと飛び越え背後に回り、逆袈裟に斬る。が、おっさんもなかなかの手練れらしく、振り返りながら剣を合わせてくる。間髪入れず斬り上げと突きを出すも、軽くいなされる。体勢を崩したところを、剣を大上段から振り下ろしてくる。親父殿や、じじぃに比べれば遅い剣だが、見えるのと受けれるのは別で、慌ててその場から転がって退避する。膝をついて起き上がろうとしているところをおっさんが薙ぎ払おうとするので、どうにか後ろに飛びのき、回避する。




「親父さんにしっかり鍛えられてるみたいだな!」


「月2回だけですけどねっ!」




 そういうと俺はおっさのの少し右に向かって走り出した。いぶかしむおっさんをしり目に俺は空・中・を・踏みしめおっさんに向かって上段から振り下ろした。


 これはじじぃに教えてもらっ魔法の一つで、俺の名前の由来になった霆王がよく使っていたらしい。これは空間を部分的に固定し、そこを足場にすることで相手に先読みをさせず奇襲を仕掛けることが可能になるという優れものらしい。霆王は超すごいのであらかじめあちこちを固定したり対象の周りの空間を固定して動けなくしてたらしいが、俺は半径50センチ以上先に魔法が届かないため直前で空間を固定している。


 おっさんはどうにか剣を割り込ませてはいたが勢いは殺せなかったようで、額から血を流していた。


 これならいけると確信を得た俺は、ヒット&アウェイに徹し、おっさんに体力と魔力の続く限り攻撃を続ける。はずだった。




「かあぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」




 おっさんが大声を上げるのと同時にすさまじい風が吹き荒れ、俺はわけもわからないまま吹き飛ばされた。体をおこした時にはおっさんが笑顔で俺の首元に剣を突き付けているところだった。




「さすがは、あいつの息子。俺に本気を出させるとはなかなかやるな!」


「あ、ありがとうござい...」


「ただ一つ気になることがある。お前あの術をどこで知った?」


「あの術...?」


「とぼけるな、空気を固定する魔法だよ。あれはうちの国の禁術に指定されてて1部の者しか知らないはずだが?」


「な、なんのことでしょう?」


「あくまで、白を切るか。それもいいだろう。よく考えてしゃべれよ?お前のやったことは今すぐ軍法会議にかけられてもおかしくないレベルのことだからな?」


「え、えっと...」




 おい、軍法会議ってマジかよ...。どうするあの能力のこと言うか?ただ証明のしようがないよな。いろいろ試した感じあそこには生物は連れていけないし、何か適当なこと言ってるって思われたら即軍法会議にかけられるよな。どうするどうするどうする......。




(普通に思いついたって言えばいいんじゃ)




 あー、最悪だ。焦りすぎてあたまのなかに、イマジナリージジィが現れた。しかもなんだよ思いついたってそんなの通るわけないだろ。




(いや、まじで、思いついたで行けるからの。だまされたと思って言ってみるんじゃ)




 うーわ、このイマジナリージジィ全然引いてくんないよ。わけわかんねぇだろ思いついたって。俺はまったくもって頭いいほうではないが、そんな俺でもダメだってわかるぞ。




「沈黙が答えでいいんだな?」




 うーわ、やばいやばい。どうしよ、これマジでどうしよ。信じるか?イマジナリージジィのこと。えぇいままよっ!




「いや、その、ふと思いついて。なんか、壁とか作れたら強いんじゃねえかって。ただ、急にまじめなトーンになるから、焦ってちょっとわからないふりとかしただけで、本当に禁術だって知ってたわけではないんです...」




 頼む!信じてくれ!禁術だって知らなかったのはマジだし!




「ふむ、ゴネリルの息子ならあるいは、か?よし、今日のところは帰っていいぞ。多分数日中に軍の使いがお前の家に行くと思うから」


「はい、ありがとうございました。」




 これは、どっちだ!?アウトか?セーフか?

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