第7話 能力

 その男は右手に短剣を持っていた。まずいと感じ全力でその場から飛びのく。男のほうを見ると男はさっきまで俺が立っていた位置に短剣を突き刺していた。こりゃほんとにやばいぞ...。俺は覚悟を決め男に向き直った。




「へっへ、おい、ガキ、何だその眼は?挑発的な目しやがって。ぶっ殺してやるよ!」




 男は短剣を体の中心に構え突進してきた。俺は体の小ささを生かして股の間をすり抜け、持っていた件で膝裏を思いっきり刺してやった。男が痛みにあえぐ声が聞こえる。おいおい、楽勝じゃねえのぉと思ったのも柄の間、男の膝裏にある剣が抜けなくなった。ちょいちょいちょい、なんで抜けないの!?と思ったが抜けないものは抜けない。こうして無手となった俺は戦略的撤退を選び、こうしてタンスの中に隠れたというわけだ。




 まったく何なんだよあいつ。急に出て来るわ、殺そうとしてくるわ、剣奪うわで、もうわけわかんないんだけど。なんか俺恨みを買うようなことしたっけ?いやそもそも基本外出ないしな。ってなると親父殿か母親殿に恨みを持つ奴か。母親殿も今日は例外だが家から出ないしな。となると親父殿に恨みを持ってる奴か。いっぱいいそうだな。というか、母親殿とフィリアがいなくてよかったよ。いや、母親殿がいないタイミングを狙ったのか?っていうか使用人はどこに行った?




 ザッザッザッ。




 あいつの足音か?こんな雑な歩き方するやつうちにはいないしな。




「どこだぁ!どこに隠れやがったぁ!」


 ガチャッ!




 おいおいこの部屋に入ってきたんだけどぉ!?でもさすがにクローゼットは見ないだろ。




 ギィッ!


「見つけたぁ!!!」




 は!?!?!?なんでピンポイントで!?!?!?


 驚きのあまり声を出せずにいると男は短剣を振り上げ、そして俺の顔面に振り下ろしてきた。せめてもの抵抗で顔を背け訪れる痛みを少しでも耐えようと覚悟を決めたが、その痛みを感じることはなかった。


 あれ?俺が目を開けるとそこには懐かしいじじぃの顔があった。




「意外と早かったの。」


「な、なにが!?」


「能力の発現じゃ。普通の者はだいたい後2年くらいかかるんじゃが、恋しくなったか?」


「ちげーよ!なんか気づいたらここにいたんだよ!」


「知っとるよ、見取ったから。」


「え?何見てんの?怖ッ」


「暇なんじゃよ。」


「あ、そう、でこっち来たけど何したらいいんだ?」


「いや、できることなんてないぞ。わしがおるくらいじゃ。」


「え?それだけ?」


「そりゃ、能力名が“いつでも爺にあえる権利”じゃからの。」


「ちなみに、こっちいる間って向こうの時間どうなってんの?」


「普通に流れとるよ。こっちと向こうでずれを出すとだいぶ面倒なことになるらしくての。っておいまて、おぬし悪いこと考えとるのぉ。」


「ふっふっふっ、いいこと思いついたぜ。聞きたいか?」


「いや、もう見えとる。」


「あ、そうか。とりあえずしばらくこっちいさせてもらうぜ。」


「いや、まぁ、ここいるのはいいんじゃが...これ大変なになった時、どやされるのわしかのぉ...」




 -----だいたい3時間後-----




「よし、そろそろいいかな。」


「お、なんじゃもう行くのか。」


「あんまり遅くなっても心配すると思うしね。...そういえばじじぃって剣とか使える?」


「そりゃ、まぁ、そこらの人間よりかははるかに強いのぉ。あとじじぃっていうのやめなさい」


「ほんと?たまにこっちに稽古つけてもらいに来るかも」


「まぁ、おぬしの能力じゃ。好きにやるといいぞい」


「そっか、またね!」




「これどうやって戻んの?」


「あぁ、戻れーって念じればいけるんじゃないかの?」






 おぉ、戻ってこれた。よしあのへんな奴はいなくなってるな。ん?なんかそとがさわがしいような...。行ってみるか。ん?あれは親父殿か?




「父上!」


「おぉ!ユージーン!どこ行ってたんだ!」


「なんか変な人が襲ってきたので隠れていました。」


「あぁ、そうか。無事ならよかった。」


「あのへんな人はどうなりました?」


「あいつなら憲兵につれていかれたよ。どうやら私に強い恨みを持っていたみたいでね、私の記憶にないから逆恨みだと思うんだが...それに目の前から消えたとか何とか言っていたし、大方変な薬でもやっていたのだろう。ともあれお前が無事でよかったよ。」




 こうしてこの一件は落着した。しかしどうやら親父殿はこの事件で危機感を覚えたらしく、月1だった指導を月2に増やすと言っていた。正直そのくらいの変化なら焼け石に水だと思うのだが、稽古が増えるのは喜ばしいことなので文句はない。それと、空き時間で一人になれるタイミングがあればじじぃのところに行き、剣の稽古をつけてもらっていた。じじぃはやたら剣術にたけていて、正直親父殿よりも強いんじゃないかってレベルだ。まぁ、神だからそれくらい強くてもおかしくはないんだが。


 7歳になると魔法の特訓も始まった。が、どうやら俺は魔法の才能があまりにもないらしくからっきしダメで、体外に向けての魔法の行使は一切できなかった。身体強化でギリとかいう絶望的なレベルだったので、親父殿も、魔法を教えてくれる先生も、何より俺自身が魔法には期待していなかった。




 こんな感じで稽古と特訓の日々を3年ほど過ごし、俺は10歳になった。

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