第三話 弁明配信

「セットはこんな感じでいいよ」

 ナマコは手慣れた様子で椅子の上に座りながらカメラやパソコンの設定をいじっており、流石配信者という風貌を感じ取れる。



「マナコたんすんごーい」

「あ、ありがとうナマコ様」

 そして設定をし終えると椅子から足を伸ばして立ち上がり、カメラを俺に返す。



「あと、私はマナコじゃなくてナマコです!ちゃんと覚えなさい!」

 ナマコさんに教えてもらって配信の設定をし直した。どうやら俺は設定を完全に間違えてたみたいで今まで真っ暗の状態でダンジョン配信をしてたようだ。



 幸い、ナマコさんのカメラのおかげで戦闘シーンはちゃんと撮れてるみたいでよかった。むしろエックスイッターではその動画ばかりが流通している。でも、映りが絶妙に悪いからかっこよさをうまく見せれているか心配だ。



 謎の奇抜な手刀男現る! みたいなタイトルで、まさか俺の能力を分かりやすく手刀という形で反映したのに、こうも早く視聴者に反響があるとは思わなかった。



 そのコメント欄には動画を機械に干渉できるすごい能力を持っててこれは嘘だ。とか今日倒したのか検証した人がいて蜘蛛は健在だったから何か高度な技術を使われているという話もされていた。



 まあ、俺が倒せてないのはいずれバレるものだと思っていたが、こうも早いとは思わなかったな。やっぱり眠らせるだけの能力ってそこまで強くないよな。目立たないし、相手を倒す爽快感なんてハナからないから、実際ゲームでよく見るゲームクリアだけを目指してやるリアルタイムアタックと同義だからな。



 ナマコさんは変身系アイドルのようにどうやら戦闘時と通常時は服装が違うみたいで今は学校の制服のようなブレザーとスカートで俺の家にいた。彼女の年齢は分からないけど制服を着ているからおそらく、いやきっと俺の後輩なのだろう。



「早く配信した方がいいよ。こういう弁明は早いうちが吉」

「弁明じゃなくて説明な気がする」

「どっちでもいいの!はやくやろう」

 そう言われながら、俺はあの時に着た警戒色マシマシの不審者衣装に着替える。



「ふぅ……配信つけるか」

 配信ボタンを押して始める。



「やあ諸君、鬼人仮面だ。諸君らの調子は如何かね?」

 仮面の位置を手直ししながら、画面の向こうに向けて手を挙げて挨拶をする。



“奇人仮面だ”

“最強の奇人仮面さんこんちはー”

“手刀マンかっこいいです”

“ナマコは今どうなんだ”

“元気ですよ!”



 いつの間に変なあだ名をつけられてたみたいだ。



「俺は奇人じゃないぞ。変っていう意味のじゃなくて、おにの方のだ。書くときは気をつけてくれ」



“奇人じゃなくて鬼なのかよ”

“仮面が鬼の顔だから奇人はおかしいって思ってたけどやっぱそうだった”

“鬼人より手刀マンの方がかっこいい”

“ナマコ!”

“そういう意味だったのか”



「そして今日私がやるのは、説明する配信だ。この前の蜘蛛討伐に関してだ」



“おお、話してくれ!”

“あれって本当に倒せてるのか?”

“手刀マン、あれの仕組みを教えてくれ”

“ナマコについて何か知ってないか?”

“蜘蛛討伐おめでとうございます”



「勿論、私は世界を愛する平和主義者である為、帰る家があるであろう蜘蛛を殺しはしなかった。殺すことは目的ではないからな。ただ軽いみね打ち程度の攻撃だ。気にしないでくれ」

 コメントの反応を見て語る。



“すげえ、博愛主義者だったのか鬼人仮面”

“最強無敵は本当なのかよ”

“手刀マンのあれは嘘だろ。いくらなんでも誇張しすぎだ”

“ナマコはお前が殺したのか?”

“みね打ちで蜘蛛が気絶するなんて有り得るか?”



 なんか変なナマコに関連するコメントが混ざってるような気がするけど俺は気にしないことにした。



「そして、諸君が最も気になるであろう。ナマコ氏の話についてだ。」

 チラッとナマコ(本物)がいる方を見る。すると指でバツを作った。きっと今の状況を俺が隠せってことなのだろう。



「彼女は――いない。つまり、大きな怪我をしてしばらく復帰できないとこちらに親族の方から伝えられた。そして彼らは機械に詳しくないので私が代わりに伝えることになった。情報は早いほうがよいからな」



“生きてるならよかったぜ”

“まああれだけ壁に打たれたらね”

“手刀マンはあれからナマコと仲良くなったのか?”

“ナマコはそんなことしない!”

“なるほどご冥福をお祈りします”



 いきなり変なコメントが増えた気がする。やっぱりナマコさんはみんながこれほど気になるぐらい人気なんだな。



「では活動報告はこんな感じだ。近いうちにダンジョン配信を再開したいと思う。その時は新メンバーも加入する。私の今後が気になるものはしっかり登録でもして通知オンにして、次の配信を見てくれ。じゃあ、おつかれ」



 数分も満たないうちに俺は弁明配信を終わらせた。同時接続者数を見ると十万人がいた。ナマコさんには及ばないけれど、底辺の俺にとってはかなり多かった。すごいな、ナマコさん。



「なんでこんな人がいたんだよ……」

 着ていた仮面や頭巾といった装備を外しながらふとつぶやく。



「私のことが気になった人と君の正体が気になる人が見てるからじゃない?」

「それにしても多くて緊張するな。はあ、俺の性に合わないよ」

 俺は肩を落としながら配信機材と装備を片付ける。



「ははは、それにしてもよく私の意図がわかったね」

「ああ、なんかその辺だろうと思ったよ」

 ナマコさんは手でバツ取ったことについて話した。まあ、俺は常識人だからいきなり視聴者にびっくりされることはしない。いや、それはおかしいか。普通の人は絶対しないよな。あれ、つまりバツをされるってことは俺、ナマコさんに信用されてないのか?



「それってつまり、俺は信用されてないってことのか?」

「そ、そういうわけじゃないよ。ただ上手くまとめた話をして欲しかっただけで特に他意じゃないの」

 俺の突然漏らした言葉を聞いて慌てて弁明するナマコさん。その態度はなんか裏がありそうみえるけどな。



「お姉さん他意ありそう」

「なーい!ないと言ったらないの」

 子供を叱りつけるような口調でルクスに話しかけるナマコさん。なんかナマコさんこの子気に入ってそう。



「そういえばお姉さんおうち帰らないの?」

「あ、あの……私、実は親元離れてからほぼずっとその日暮らしで家とかほとんど借りたことないの。掃除めんどくさくてあんまやりたくないし」

 ん、どういうことだ?あ、金があるからホテルで住んでるってことか、流石トップ配信者、金持ち過ぎてホテルぐらしなのか……いややっぱり普通に意味わからないよ。



「それにしても家借りずにホテル生活できるってことは、かなり金持ちじゃないとできなくないか?さすがナマコさん、配信者は夢があるね」

「ま、まあ……えへへ、へへ」

 ナマコさんは目を細めて照れてた。いやそこまで褒めてないよ。



「まあつまり、いつもホテル暮らしして基本住む場所ないんで、せっかくだししばらく住ませてくださいってこと?」

「そ、そう!……随分直接的に言うね」

「いや普通にそれしか思いつかないでしょ」

「あはは……はは」

 申し訳無さそうに髪をかぐナマコさん、いきなり人の家に転がってくるのもよくわからないよ。



「お姉さん金にがめついよ」

「が、がめつい!?私って金にがめついの!?」

「がめついではないけど……まあ、一緒に住む人が一人増えたところで何も変わらないし、それでいいよ。それにしても想像と違ってだいぶむちゃくちゃなことしますね」

 ルクスの言動が時々失礼すぎる気がするけど、まあ人造人間ホムンクルスだから仕方ない。これから色々学べばいいんだ。



「むちゃくちゃ!?まあ私はよくみんなにそれを言われるよ」

「でもよく人の家に住む気になりますね、俺がもしかすると悪い人であなたを拉致して人身売買するかもしれませんよ」



「まあそういうときになったら、私が魔法でバーンとかドカーンすればなんとかできるし、そして君はでか蜘蛛にやられて、打ち上げられて魚のようにバタバタ跳ねてた私を助けた大恩人だからそういうことしないって信じてるよ。そして元気ではしゃいでる子供が家にいる人に悪い人はいない!」



 ナマコさんはどこか抜けてるかのように立ち上がってポーズを構える。そして腰の痛みなのかすぐに床に座った。



「そ、そうっすか……じゃあいいですよ。す、住んでいいです」

 ツッコミどころが多い気がすることにちょっと俺は呆れながら了承をする。でも、正直推しと一緒に過ごすのは気分的にきついものがある。



「よかった、じゃあ私は今日ここで寝るね。どこで寝ればいい?」

「ん?ナマコさん荷物とかないんですか?」



「あ、それは私の空間魔法でアイテムボックスが使えるから大丈夫だよ」

「さすがナマコさん。学校とかはあるんですか?」



「それも私の転移魔法ですぐにワープできるから大丈夫だよ」

「さすがナマコさん。でもそれならどうして蜘蛛に負けたんですか?」



「に、苦手なのと、怖いから」

「それほぼ、一緒じゃないか?」

「う、うるさい……わ、ワープ」

 ナマコは顔を赤らめてそのまま転移魔法を使用してどこかに消えた。



「夜までに帰って来てくださいね」

「帰ってこいよー」

 先程までナマコがいた場所に向けて俺は声をかける。配信者って大変そうだ。






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