第四話 思いがけないいじわる
「にしても、何が起きてるんだ」
エックスイッターを開いて、トレンドを見るとこの数日間のトレンド上位には常に[鬼人仮面][奇人仮面][ナマコ][手刀マン]が並んでおり、どれもが俺について語っている内容だった。
“奇人仮面ってw鬼人仮面だろwなんで間違えてるやついるんだよ”
“奇人仮面さんからナマコについての話を聞いたけど本当なのかな?”
“鬼人仮面のあれはさすがに嘘だと思うんだよな。確か仮面の方の配信はほぼずっと真っ黒で音しか無かったし、何より蜘蛛を気絶させること自体がありえない話だ”
グーチュブを開くとおすすめに出てくる内容も似たようなものになっていた。
“有名配信者が無念に散った蜘蛛、手刀マンに倒される。マルバツチーズとは何だったのか”
“手刀マンの謎手刀とは何か?それについて解説する”
“変人仮面の無映像配信について考察”
手刀でそんなに人気になるのか?と、俺が思ってた予想を覆すような話題ばかりで、それぞれどれもが数十万再生は必ずされていた。
そして俺の配信用グーチュブアカウントを開くと、前まではほぼ居なかったフォロワーがいつの間に七十、八十万と増加していた。
「恐ろしい成長速度だ。人、増えすぎだろ」
俺はそう言いながら次のダンジョンに向けての用意をする。
とはいえ、どのダンジョンに行けば良いのだろうか。
最初はまず手刀だけでも映そうなダンジョンに行きたい。
となると、まずは近接戦闘の多いダンジョンがいいな。
そうだ、鎧を着たクマがボスのダンジョンが確か日本のどこかにあったな。確かあそこのクマは近距離強いボスだから、あとでナマコさんに頼んでワープしてみよう。
「それで、ゲーミング色は飽きたか?ルクス」
「まだ飽きない」
「なら配信に映る時の色は一個だけにしてね」
「うん、白にするよ」
「いいね。最初から白だから一番いいかも」
ルクスを撫でる。この子はどこかと幼げがあり、子供っぽい。まあ
「それにしても、ナマコさんまだ帰ってこないな」
「ちょっと、撫ですぎ」
ボーッとしてると気づけばルクスの髪をしわくちゃにしていた。
「やべ、ごめんな」
すぐに手をルクスの髪から離した。今俺は今ルクスを抱っこしながらスマホを見ている。最初は嫌がるだろうと思ってやめようとしていたが、本人はこれがいいと言うのでルクスの言う通りにしている。
「ただいまー」
玄関の方から若い子の声、いやナマコさんの声が聞こえた。きっとワープで戻ってきたのだろう。
「おかえり、って普通にこの部屋にワープすればいいのに」
「風情ってものがあるでしょ」
「そうか。まあ俺にとってはよく分からないものだな」
「はあ、まあいいよ。ルクスちゃん元気だったー?」
俺の返しに呆れたナマコさんはルクスに話しかける。
「お姉さんは元気だった?」
「元気元気、元気だよー」
「何しに行ってたの?」
「うーん、こっちに引っ越すための必要品を整理したり、外で食事していた」
「腰を痛めてよく動けますね」
「戦闘しないからなんとかなってるだけだよ」
ナマコさんはアイテムボックスから色んなアイテムを持ち出した。魔法についての研究書、学校の教科書、そしてエロ本。
ん?エロ本?
そのエロ本を取って、タイトルを確認する。
エリカ様の情事と書かれた本だった。これは表紙的に純愛本だろうか?いろいろと珍しい。
「女性ってこういうの読むんですか?」
「あ、あのねえ。人の間違って取り出したものを確認してまで文句つけてんじゃないよ!」
ちょっと頬を赤らめながら俺の手にある本を取り返そうと本を引っ張る。
「いや、シンプルにクエスチョンです」
「う、ウザいよ君。ここで君を拘束して二度と動けないようにしてやろうか」
俺のわざとらしいインテリぶった言い方を見て苦笑いしながらナマコさんは引っ張る手に魔力を込める。
「お兄さん性格悪いよ」
「ご、ごめん……ちょっといじわるしたくなった」
ルクスに言われてはっと気づいた俺は本を返した。
「君たちまだ会って間もないのにどうしてそんなに仲良いの?」
本をアイテムボックスに戻したナマコさんは不思議そうに言う。
「そりゃあ、ルクスが可愛いからだよ」
「みちやそれやめてー」
ルクスの髪をくしゃくしゃしながら話す。
「ああそう、なら私は可愛くないから変な嫌がらせしてくんの?」
「ご、ごめんなさいナマコさん。」
「そしてその、ナマコさんはなに?私には尾辻冬樹という名前があるんだからそっちで呼びなよ」
ナマコさんはどこか不服そうに口を膨らませて話す。
「え!?ナマコさんの本名ってそんな感じなんですか!?」
「何がおかしいの……ってああ!なんで私知らない人に本名教えてるの!?」
一瞬ん? という反応をした後、すぐに尾辻は慌てふためく。
「なんか初めて聞きました。驚きです」
「うう……もう一個気になることがある。どうして時々敬語になったりタメ語になったりするの?私たちってそんなに仲悪いのかな?」
しょぼーんと落ち込んだ顔をする尾辻。
「いやいや、そんなことないです。ただ単にやっぱりナマコさんは推し――」
「いや、その話はどうでもいい。私は私だからナマコとは関係ないの」
話の流れを断ち切るようにわり込む尾辻、敬語もダメなのか。
「ご、ごめん。普通に話した方がいい?」
「うん。仕事してる気分になるから出来ればやめて欲しい。ていうかあなた何歳?」
「20ぐらいですね」
「うわ、思ったより若い。なのに後輩に敬語とかどういう精神?」
「いやだって、推しなのであくまで敬意を表するために敬語を使うんですよ」
「でも配信してない時のわたしはナマコでもなんでもないよ」
「それはそうなんですが……」
「じゃあ今後生活する上で敬語禁止ね。じゃあここにある空いてる部屋でどれに住めばいい?」
「あー入口に近い部屋でいいよ」
「わかった」
尾辻はそのまま言われた通りの部屋に入る。
「うそ、ゴミだらけじゃん!」
しばらくすると驚いた尾辻の声が聞こえる。あ、忘れてた。そこに俺、この部屋に置いてたゴミ置いてるんだった。
「お兄さん、住む人にゴミ部屋与えるなんて性格が悪い」
「ごめん……片付けてくる」
「がんばれ」
ぬいぐるみを持った無表情のルクスが応援しようと拍手する。どういう顔だ。
「どれぐらい嫌がらせすれば気が済むの?」
「ごめんなさい、少し前までニートだったので……」
「今もじゃない?」
「たしかに」
俺は気まずい思いをしながらゴミを尾辻と一緒に片付けることになった。
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