第二話 不思議な男 [ナマコ目線]
私の本名はナマコなんて可愛いものではなく、どこか男っぽい気配のする
冬樹という部分が男っぽく、髪を短くしていた時はよく知らない人には男扱いされていた。喋らないと基本的に男だと思われて、男同士の変なセクハラされたりすることもあったので普通に嫌だった。
そのため、私は今髪を長く伸ばしたりして、明らかに男じゃないとわかるようなるべく振る舞うほど自分の名前が嫌いだ。本当ならもうちょっと女の子らしい名前にでもして欲しかった。
でももう、そう後悔する暇もないか。だってもう、私は死んじゃったから。
私は配信者だ。自分の考えた魔法を広い荒野でただ打つだけという魔法研究少女というシリーズで有名になったの。スケールがでかくて威力が分かりやすかったため、色んな人が見てくれた。海外の人とか、外国人とか。
それで未来の国を背負う大魔導師とチヤホヤされて私は流されるまま、私の好きだったマルバツチーズという男の有名配信者グループが全員道中で散ったという魔の地、彼岸ダンジョンに挑んでみることになった。
道中は大きな起伏がなく、ようやくマルバツチーズ最後の配信で見た蜘蛛、スパイダーウォザレストがいる層に到達した。その時、思わず全員が為す術なく崩されたことを思い出して足が震えた。でも、必死に頑張った。儚く散ってしまった彼らの代わりにその復讐を果たすために。
しかし、私はどうやらいろんな賞をもらって思い上がりをしていたみたいで、この蜘蛛の鱗は硬く、私の魔法は全く効いていなかったようだった。そして私はそのまま蜘蛛の糸で縛られ、おもちゃのように壁にぶつけられて遊ばれた。
必死に最後の力を振り絞って使った転移魔法で、どこかに逃げようとしたけど失敗したみたい。そして気づくと、そこには鬼がいた。そう、文字通りの鬼だ。
あの時私は色々その鬼に助けをもらおうとしたけど、今ここにいるってことは、あれ自体がそこらにいるモンスターで、おそらく私はそれにやられて死んだ。あのモンスターは見たことなかったけど、きっとそんなとこだろう。
何も果たせない寂しい人生だったな。
「ナマコさん、起きてください」
「人間に初めて使ったが、昏睡ってこんなに効くのか?」
私の視野内に暗闇に一筋に光が現れた。私はその光を掴もうと必死の手を伸ばす。
「いたっ、ちょっ、夢遊病も発症するのかよこのスキル!」
「危ないスキルだね!すぐに使うのやめた方がいいよ!」
「うん……?」
光をようやく掴んだと思って目を開けると、知らない男の顔を殴っていた。
「だれ?こわ」
思わず言ってしまった。そこにいたのは普通の男と謎だらけな髪色が常に変わるゲーミング色の少女。もしかして転移魔法が成功して変なとこに行っちゃった?じゃああの記憶はなんだったのだろう。
「ようやく起きた。ナマコさん大丈夫ですか?」
「ナマコさーん、ナマコさーん」
二人は横になっていた私に向けて手を振る。
「はい、ナマコです。なんですか?」
「なんか配信とかで見る態度と違いますね……」
「怖いよ、お姉さん」
だるそうに返事した私の顔を見て二人は畏怖するような引いた態度を見せる。
「コホン、はわわ〜ナマコここ知らにゃい〜ここはどこにゃの〜?」
咳を払っていつものテンションで話すことにした。なんかこの人たちに怖がられてるならこの態度で行こう。
「おお、これよこれ。これが俺が見たいナマコさんだ」
「ナマコの名前っぽい話し方」
二人は私を見て腕を組みながら嬉しそうに頷く。何だこの二人。ちょっと嫌だからやっぱりやめよ。
「あの、ここはどこかって聞いてるんですが」
「どこって、そりゃあ俺ん家ですよ」
「ミチヤの家だよ」
その家をさも共通認識かのように話されても……
「……そもそもあなた方って誰ですか?」
「ああ、そうか。仮面つけてないからわかんないのか」
「はいこれ仮面」
男は何か赤い仮面のようなの取り出した。
うーん?
あ、これ夢の中で見たやつだ。
「私を地獄に送った鬼」
「いや、助けた鬼だよ」
鬼の仮面を見て思い出した。今生きてるってことはこの人の言う通り私を助けたのだろう。
「助けてくれてありがとうございます。この恩は感謝してもしきれません」
まだ痛む体を動かし、立ち上がってお辞儀をして手も合わせて感謝を示す。
いたっ。
痛みでまだ動けないみたいで立ってまもないうちに床に崩れる。
「ああ、ナマコさん別にそこまでしなくていいですよ」
「ほら、身体疲れてるよ」
ゲーミングカラーの女の子がジャンプして、腰あたりを強くえぐり取られるように触られる。
「ヒィッ……」
この子本当にどこ触ってんのよ……普通に怪我したとこ触られて痛い……
「お、おいルクス、相手はけが人だぞ。慎重に扱えよ」
「お姉さんごめんなさい」
ぺこりとルクスはさっき私がしたような謝り方をした。真似してるのかな?
「あ、ナマコさん聞いてくださいよ。ちょっとご教授して貰いたいものがありまして、ほらこの前ダンジョンで会ったじゃないですか」
「はい、会いましたね」
男はニコニコしながら話す。なんでニコニコしてるんだろう。私が何か変なのかな?
「あそこで蜘蛛眠らせたらなんかチャンネルのフォロワー爆増して大変なことになりましたけど、どうすればいいんでしょうか。」
「ね、眠る?眠るってどういうこと?」
急に礼儀を正してきた。よくわかんない人だなこの人。でも、蜘蛛を眠らせるってどういうことだろう? あの蜘蛛は確か常時状態異常無効がついてるってちょっと聞いたことあるし。
「眠るは眠るだよ。ほら君がさっきまで寝てたのも俺の仕業」
「夢遊病も併発させちゃう恐ろしい技だよ」
「夢遊病……それなんで起きたんだろうな」
「ちょっと待って。どういうこと?つまりあなたあの蜘蛛を眠らせて、宝を入手したの?」
「宝?ああ、この子が出てきたよ」
ゲーミング色に光る女の子の頭を撫でる男。え? この子お宝なの?
「その子、あまり世に出さない方がいいと思う」
「どうしてだ?」
「普通に、出したらまずいよ。だってその子ダンジョンのお宝なわけだから、それに比例した値打ちがあるってことだよ」
「まあ確かに、こんなゲーミング色の子街では見かけないもんな」
あ、ゲーミング色が変だとは思ってるんだ。
「でもゲーミングはかっこいいよね」
「ああ、俺もそう思う」
「いやゲーミングはかっこよくないよ」
前言撤回、ゲーミング色をかっこいいと思う人いたんだ。嘘……
「でも早く弁明配信とかした方がいいんじゃない?有名配信者でも倒せなかった蜘蛛を倒せたんだから」
「いや、俺は眠らせただけだから倒したわけじゃないよ」
「それでもすごいって!ボスモンスターは基本状態異常無効なんだよ!」
この人どこか抜けてるよ。眠らせればそのままダンジョンのお宝部屋に入れるんだからかなりすごい。
「そっか。なら何を話せばいいんだ?寝かせて人助けして帰ってきたって言えばいいのか?」
「そうは言わずに普通に撃退したでいいよ。配信者はやるならかっこよく、ね?」
「かっこよく、か。わかった、やってみるよ。」
この人、私を助けておいてすごく謙遜な態度取ってるなあ……こういう人が大成するんだろうね。ちょっと尊敬できるなぁ。
少しだけ、この奇抜な男に興味を持った。
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