2・あをさぎ

優しくあれ優しくあれと念じつつどんぶりの麺かき回しをり


涼しさに枝を仰ぎつ命もてある苦しさにまみを細めつ


師のやうには愛をゑがかず画家はただ抱擁の人間を画けり


これをもてわかれとはせむ電線の積雪ともに見上げて笑ふ


死にさうなくらゐ良い歌集(殺されるもんか)君にも食らはせたかつた


旧かなが存外ぞんざいどうしたつて貴方に読ませたくなつちまふ


くろ髪のあなた私にたたなはり暑いあついとふざけし季節


ねがひとは陰火に通じあなたを火傷させてしまひます。抱かぬやうに。


何も残さぬつもりで「消尽します」と云へど君疑はずうなづく


しまひきと歌を結んでしまひたし取返しつかぬこと多ければ


心還る場所などといふが心とはいつぽんみちの旅路ならずや


首筋ゆ流す湯はばむもの無くて二十歳の膚と並行に落つ


同じ曲流れて違ふ歌を聞けり 木蓮に罪はないんだけど


あをによし奈良  ふ人らいつみても鹿に食まれてきやあきやあいへり


うららかな空の辺りを見てをれば奈良県庁に鳩昇る見ゆ


目的にな据えそ所属団体はただの座標に過ぎざりければ


かふちなるあをさぎ鳥が目を閉ぢず夢を見るなら丁度ああだらう


俺も泣かうかと目瞑れど泣くほどの水位すでになきししむらの夜


 けて日影に入りしゆゑなるか花のさかりを沈丁花は過ぐ


かりなどと読んでしまひきたださへも小さき君の背を忘れ得ず


結局のところ私はつらかりき鉄路は真直ますぐでもよく揺るる


理由など解りきつてて蓮喰ひのひる過ぎにわがなづき重たし


岩波のマラルメ一行だに僕に読まれずにゐて一行は悲し


  歌は愁ひの器にあらず武器にあらずさくら咲き自づからことばみちくる

    ――尾崎左永子『さくら』

歌は愁ひの器にあらず、と言はれても風出て自づから愁ひ湧きくる


肩にまで届かぬを立ち抱くときまなひは野を、夏野を視たりき


みどり野に避雷針立つ まぼろしのごとかるたましひ触れてみたきを


チョコ次郎が分からなくてと歌会は澱みチョコ次郎よもつと知られよ


君に遭ふまでのひととき青年期を銀花ぎんくわといへるそよぎゐたりき


真に受けたきことの多かり雪柳ゆきをわが身にまつはらせゐつ


夏の風ふきすさぶ野に傷閉ぢてゆく寂寥せきれうは伝へ得ぬもの

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