第19話 デート①

「今日は姐さまとデートだ」


 鏡の前に立って、身なりを整える。

 寝癖はない。ちゃんと昨日姐さまにもらった髪飾りもつけた。

 準備万端だ。


「モカ。準備はできたか?」

「はい。行きましょう!」


 扉を開くと冷たい空気が吹きこんできた。


「はやく冬支度をしないといけませんね」

「そうじゃのぅ。手が凍りそうじゃ」

「手を繋いだら、ちょっとはあったかくなりますよ」


 姐さまの手をとり、ぎゅっと握った。

 綺麗な手はすでに冷たい。


「そうじゃのぅ。ありがとう、モカ」


 頭を撫でられる。

 子供扱いされているような気がする。


「私はもう15ですよ」

「そうじゃった。以後、気をつける」

「たまにならいいですけどね」


 頭を撫でられるのは嫌いじゃない。

 ただ、姐さまの恋愛対象になれない気がして寂しくなるだけだ。


「さっそく手袋を買いに行きましょう」

「それがいいのぅ」


 私たちは市場に出かけた。


「どれにしましょうか?」

「指は別れている方が何かあったときに対処しやすいのぅ」

「ならこの白の手袋とかどうですか? きっと似合いますよ」


 まぁ姐さまは何を身につけても似合うだろうけど。

 美人とはそういうことだ。


「たしかに良いのぅ。それにしよう」

「なら私はそれの黒にします」

「お揃いじゃのぅ」

「はい。素敵な姐さまと同じ物を身につけたいな、と思って」

「そうか。嬉しいことを言ってくれるのぅ」


 姐さまの反応も良さげだ。

 嫌がられたらどうしようと思っていたから一安心だ。


 会計をして、さっそく身につける。


「姐さま。似合ってます!」

「ありがとう。モカも似合っておるぞ」

「そうですか。ありがとうございます!」


 褒められて一通り舞い上がった。

 そして気がついた。


 姐さまと手を繋ぐ理由がなくなってしまった。


 こんなことなら先に別のものを買いに行けばよかった。

 だが後悔先に立たず。もう手遅れだ。

 諦めて並んで歩こう。


「人が増えてきたのじゃ」


 たしかに時間が経って、人の往来も増えてきた。

 迷子にならないよう気をつけなくちゃ。


「はぐれぬよう手を繋いでおこう」

「あ、はい!」


 姐さまから誘ってもらえた。なんたる幸せ。


「次はどこに行きましょうか?」

「そうじゃのぅ。少し、マーケットの方へ行ってみようかえ」

「良いですね!」


 私たちはさっそくマーケットに向かった。

 マーケットは冬支度をする人で賑わっていた。


「モカもCランクになったらマーケットに出店するのが良いかもしれんのぅ」

「初期費用が安いから、とかですか?」

「そうじゃ。月30000mol程度で出店できるから始めやすい」


 なるほど。店舗を持って商売するとなるとかなりの初期投資が必要になるが、これだとかなり費用を抑えられる。

 お父さんがよく商売の失敗談をみながら「最初は小さく始めるもんなんだよ。どーんとでっかい金だすから失敗するねん」などとうだうだ言っていたのを思い出した。


「それにマーケットで知り合いを増やせば情報共有もできる。例えば次は何が流行るか。何の値段が上がって何の値段が下がるか。そう言った情報は商人にとって非常に大切じゃ」

「詳しいですね」

「昔、色々あって勉強したのじゃ」


 確か姐さまは漫画で密輸武器の売買をしていたはず。

 炭花ちゃんも骨董品の買取をしていたな。

 もしかしたら描かれなかっただけで他にも商売に関わることは多かったのかもしれない。


「仕事の話が長くなってしまったのぅ。すまぬ。楽しい買い物に戻るかのぅ」

「そうですね。これとか姐さまに似合いそうですよ」


 私は近くのお店に並んでいるマフラーを指差した。

 黒のモフモフとしたマフラーで、とっても暖かそうだ。


「こんにちは。良ければつけてみてくださいね」

「では試させてもらうかのぅ」


 姐さまがマフラーを巻いた。めっちゃ似合ってる。

 姐さまの美しさにモフモフマフラーによるカッコよさがプラスされすごく素敵だ。


「すごく良い感じです」

「お似合いですよですよ!」


 これはきっと姐さまのために作られたのだろう。

 そう思った。


「姐さま。それ、買いましょう」

「一応他の品の見てからの方が良いと思うぞ」

「また来てくださいね」


 一度はその店を後にした。

 だがどの店を見てもあのマフラー以上にしっくりくるものがなかったので先ほどの店に戻った。。


「今日はデートですか?」


 マフラーを包む店員さんに聞かれた。


 どう返答すべきか。

 ここで違うといえば万が一姐さまが私に恋した時、すぐに諦めてしまうのではないだろうか。それは絶対に嫌だ。

 でもだからといって肯定するのもおかしな話だ。姐さまとは恋人同士ではない。


 私があたふたしている間に姐さまが答えた。


「そうじゃ。今日は二人で買い物じゃ」


 あれだ。姐さまのデートは広義デートだ。二人で買い物行ったらそれはデートな人だ。


「ならこれも持っていってください。色違いなんですけど、きっとお連れさまに似合いますよ」


 店員さんは白のモフモフマフラーを渡してくれた。


「良いんですか?」

「お二人の思い出にどうぞ! きっと似合うのでマフラーも喜びます」


 ありがたくいただ、さっそく巻いてみた。


「似合っておるのぅ」

「やはりピッタリですね。マフラーが嬉しくて歌ってますよ」


 店員さんの例えはよくわからないがとりあえず良い感じらしい。よかった。


「それに合うコートも用意しなければのぅ」

「それならここの角を曲がった先にあるお店がおすすめですよ」

「そうですか。ありがとうございます!」


 さっそく店員さんおすすめのお店にいってみた。

 可愛いお洋服が沢山あった。

 結果、姐さまの着せ替え人形状態になった。


「其方はなんでも似合うのぅ」

「それは姐さまもでしょう?」

「そりゃ嬉しいことを言ってくれるのぅ」


 姐さまはしばらく悩んだが一着のコートを選んでくれた。


「其方に合っておる」

「ありがとうございます」


 姐さまにお洋服を選んでもらった。すごく嬉しい。


「買い物は終わったのぅ。ケーキでも食べに行くか?」

「はい! 行きます!」


 買い物を終えた私たちはケーキ屋へと向かった。

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