第18話 デートの予定

「私、その……姐さまを好きになってしまったんです!」


 私はとりあえず師匠である真羽さんに相談した。


「別にいいんじゃないか?」

「私は女ですよ」

「月夜さんは女と寝てたこともあったぞ」

「え」


 漫画を通して仕事で体を売っていたのは知っていた。

 でもまさか女性とも寝ていたとは。


「あんたも女が無理ってわけじゃないんだろ?」

「そうですけど」


 私は好きなものが好きで生きてきた人間だから特に気にしていない。

 多少は驚いているが、多分そのうちなじむ。


「月夜さんは私を妹を重ねて見ているんですよ。私なんかに魅力を感じてもらえるわけがないですよ」

「そんなことないと思うぞ」


 玄関の扉が開かれた。月夜さんが帰ってきた。


「モカ。本当に悪かった。受け取ってくれ」


 姐さまの手には真っ白なリボンがある。結び目のところには雪の結晶の飾りがついている。

 とても綺麗だ。


「別に気にしてませんよ」


 本当は気にしてる。自分を女と見てもらえないような気がしてちょっと傷ついた。

 でも姐さまと同じ次元にいられるだけで幸せなのだ。

 文句なんか言えない。


「つけてもらってもいいですか?」

「あぁ」


 姐さまが髪を結んでつけてくれた。

 ハーフアップにした髪の結び目にリボンがある。


「似合ってますか?」

「よく似合っておる」


 そういって姐さまが頭を撫でてくれた。

 ひんやりしている。

 夕方になると外は冷えるから、そのせいだろう。


 寒い中、買いに行ってくれたのか。


「姐さま。ありがとうございます。大切にします!」

「そうか」


 姐さまは優しく微笑んだ。


「おーい。俺がいるのを忘れないでくれよ。お二人さん」

「炭花もいるにゃー!」


 真羽さんといつの間にか部屋にいた炭花ちゃんにからかわれた。

 だから、なんかいける気がした。


 姐さまの心を射とめるのも可能な気がした。


「今日の夕飯はシチューだよ」

「パンもついてるにゃ」


 スープ皿から湯気が立っている。美味しそう。


「いただきます」


 乳白色のルーはクリーミーで美味しい。

 にんじんやジャガイモも中までしっかり火が通っていてやわらかい。

 しかも野菜の甘みまで感じられる。

 最高だ。


「今日のシチューもいい感じだ」


 真羽さんも満足の出来らしい。


「あったかい食事が冷えた体にしみるのぅ」

「もうすぐ冬だにゃあ」


 この世界にも冬があるらしい。

 冬といえばアレだな。あとで墨花ちゃんに手伝ってもらってつくろう。


「モカは防寒着もってないよね」

「はい」

「なら明日にでも月夜さんと買いに行ってきな」


 ちょっと真羽さんはやくないですか?

 相談してすぐにデートを設定してくるのやばいな。


「わっちは良いんじゃが、モカはどう思う?」

「どう思うも何も、ぜひ一緒に選んでもらいたいです!」


 姐さまとお買い物。絶対に楽しい。


「楽しんで来たらいいにゃあ」


 明日は姐さまとデートか。楽しみすぎて寝れなくなりそう。


「手袋に帽子にセーターに。あとで買い物メモを作らないとにゃあ」

「そうだね」

「帰りにカフェでお茶でもしてきなよ。二人はいつも頑張ってるんだからしっかり休みな」

「それはいいのぅ」


 もう完全にデートだ。

 心の準備が間に合わない。


 助けを求めて真羽さんの方をみるも、ニッコリ笑顔で返された。

 えぇ……。急激な供給の増加で倒れちゃう。


「明日は冬支度だ」

「冬支度といえば、墨花ちゃんにちょっと手伝ってほしいことがあって」

「何にゃ?」

「食べ終わってから話すね」


 墨花ちゃんはパンをシチューにつけて食べている。

 おいしそう。私もやろう。


「それで、手伝ってほしいことって?」

「こたつを作りたいの」

「こたつ!」


 漫画ではよく墨花ちゃんがこたつで丸くなっていた。

 めちゃ可愛い。


「そのために墨花ちゃんのスキルを借りたいの」

「具体的にはどんなことをすればいいのにゃ?」

「ええっとね」


 私はこたつの本体を形作ることはできる。

 でも、あっためるとかの機能は作れない。

 だから墨花ちゃんの付与のスキルを使ってあっためてもらおうと思ったのだ。


「なるほど。多分できるにゃ!」

「ほんと! じゃあさっそく作ってくるね」


 【部屋】に入ってさっそくモデリングだ。

 大きさや高さは勘でつくる。使いにくかったらまた作ればいい話だ。


「こんな感じかな?」


 丸い机と布団ができた。中にはあったかくなるところとスイッチも付いている。

 完璧だろう。


「炭花ちゃん。ここにある一点を押されたらしばらくの間だけあったかくなる効果をつけてもらえる?」

「任せてにゃあ!」


 炭花ちゃんが発熱部分に触れると鈍い桃色に光った。


「これで多分できたにゃあ。ちょっと試してみるにゃ!」


 さっそくスイッチを入れてみる。


「あったかくなってきたね!」

「懐かしのこたつにゃあ」


 足を入れてぬくぬくする。

 ときどき炭花ちゃんの尻尾が足の裏にあたってくすぐったい。


「なんだか暑くなってきたねぇ」

「まだぽかぽかが切れてないにゃあ。もっと短い方がいいかもしれないにゃ」

「そうだね。調節してみよう」


 こたつから出るときに事故は起こった。


「にゃにゃにゃ! 熱いにゃ!」


 尻尾が加熱部にあたったらしい。


「加熱部にカバーもつけないとね」


 モカと炭花のこたつ作りは続くのだった。

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