第15話 傷だらけ
私は【部屋】から訓練用の木刀といくつかの玩具を取り出した。
「あんたが相手かい」
「小娘。俺は女だからといって手加減はしねえぞ」
大剣を持った男が真剣な目をして言う。
学校の級長っぽい目をしている。
まっすぐで真面目な良い目だ。
「んなもん要らないね。うちはさっさとあの女を倒すよ」
私の標的はあくまでもあの女。
だから男を倒すことではない。
だから勝てる。
「かかってきなよ」
相手が挑発してくる。
「やってやんよ!」
私は木刀で男に斬りかかる。
もちろん受け流され代わりに大剣で斬られる。
「いぎゃ!」
痛い。だがもう少し耐えなきゃ。
こんなやり方じゃないと私は勝てないもの。
「うわ!」「ひぎゃ!」「ふぎゃ!」
何度も斬られる。傷ができる。
マジで痛い。死ぬほど痛い。
耐えて、耐えて、耐えて、耐えれるギリギリのところでぷつりと糸が切れたように地面に倒れる。
「死んだか?」
大剣を持っているのは多分左手だけだ。とにかくすぐに大剣をふれる状態にはない。
なぜなら男の右手は私の手首にあるからだ。脈を取ろうとしているのだろう。
いい人なんだよな。ちょっとこんなやり方をするのは申し訳ない。
でもあの女を消し去るためだ。仕方ない。
私は勢いよく起き上がり、男にスライムボールを投げつけた。
百均で売っているようなものよりも何倍もネチョネチョしてる。
手についたらなかなか取れないだろう。
これは魔物を倒す道具を作るときに考えたものだ。
結局いらなくて在庫が余っていたが真逆こういった形で役にたつとは。
急に私が起き上がったことで驚いた男はスライムボールを浴び、地面に倒れた。
しばらくネチョネチョして起き上がれないだろう。
だがこれだけで十分とは言えない。
私はさらにスライムボールを投げて男の全身をぐちょぐちょにしてしまう。
ついでに群衆の前にもスライムボールを撒いて、侵入を防いだ。
「何をする! 貴様、卑怯だぞ!」
男はわめいている。が、知ったこっちゃない。
喧嘩にやルールなんてねえんだよ。
私は男の後ろに周り、スライムを踏まぬように気をつけながら近づく。
そして男の両手首に手錠を嵌めた。
ついでに男の両足にも錠を嵌めた。
これだけやっておきゃ大丈夫だろう。
「次はあんただよ」
とりあえずスライムを投げつけておく。
ネチョネチョだぁ。
「スキルを解除しな」
「嫌よ! どうしてあんたが、あんたなんかが!」
キーキーうるさい。
気絶させたらいけるかな。
「ぶつよ」
木刀を構える。
体が傷の存在を主張してくるが、無視する。
こっちはそんなものに構ってられるほど暇じゃねえんや。
「ひぃ!」
女は逃げようとした。
だがネチョネチョのせいで逃げれずつんのめって顔面からスライムにつっこんだ。
「ぶつよ」
私は女の首に木刀を当てた。
ここに当てたら首の骨を折って殺せるかな。
「わかった。わかったから! スキル解除するから! 自首するから殺さないで!」
ひとまず木刀をしまう。
すると女は両手を合わせて何か祈りを捧げた。
これがスキルの解除方法なのかな?
無事解除されたようだ。
よせあつめられた群衆がばたりと倒れ、意識を取り戻した。
「頭がぐわんぐわんする……二日酔いみたい……」
「なんで俺はこんなことを……」
これで一件落着。
女に手錠をかけて完了だ。
対戦相手の男の手錠を外し、炭花さん特製のスライム落しを渡した。
「ごめんなさいね。あんな女との喧嘩に巻き込んじゃって」
「いや、たしかに巻き込まれはしたが、洗脳された俺も悪い。だからこれはタダで貰う。それでチャラな」
「ありがとうございます」
私は薬品を配ってから、あの女を連れて冒険者ギルドに向かった。
ギルドで事情を話すとサクッと回収してくれた。
この辺で有名な当たり屋だったらしい。
つまり私は当たられたってことか。
なら私は悪くない。
受付のお姉さんは女を奥に追いやったあと、こんなことを言った。
「あの人が馬鹿で良かったですね。【魅了】を同性には使えないと思い込んでいる。頭が凝り固まってます。【魅了】は異性のみならず同性、ひいては魔物まで従えることのできる素晴らしき能力です。でも想像力が足りず、結果こうなった。あなたはしっかり想像力を働かせて、良い冒険者になってくださいね」
想像力か。確かに私のスキルも想像力によってどれだけスキルを使えるかが決まる。
私が作れると思ったら作れるし、作れないと思ったら作れない。
本当にスキルとは面白い。
「図書館には魔道書というスキルの可能性を調べてまとめている本が置いてありますよ。よかったら行ってみてくださいね」
魔導書か。ソフトの使い方とか載ってるのかな? もしかしたらどの素材を作るのにはどれくらいの素材が必要か体系的にまとめてあるかもしれない。
そのうち見に行こう。
「傷は大丈夫ですか?」
「後で処置します。お気になさらず」
少々痛いが、まぁ寝たら治るだろう。
「では。あの女はコテンパンにしといてください。私は商業ギルドの方に行きます」
「さようなら」
私は商業ギルドに向かいDランクになってから初めての納品をした。
「とっても美しいデザインですね。きっと喜ばれますよ!」
「ありがとうございます!」
褒められちゃった。
嬉しい。
「怪我ははやめに処置するんですよ」
「はーい」
私は傷を心配しつつも報酬を受け取り、宿に戻った。
ハンモックもあることだし少し寝よう。
────お知らせ────
ここからは毎週土曜日にその週書けた分を、投稿する形にします。
ストックがなくなったからです。
よければ日曜日にでもまとめて読んでください。
★ください。流れ星をください。
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