第14話 ゴミは許さん
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
翌朝、私は宿を出た。
初のDランクの依頼を受けるためだ。
「最初だし、ちょっと変わったのを受けたいな」
冒険者ギルドまでの道のりを歩く。
いいかげんにギルドまでの道も覚えた。
危ない道も知っている。もう変な人に絡まれることはないはずだ。
「今日はこれにしよ!」
さっそく金属製品の依頼を取った。
しおり4種×100:80,000mol
備考:モチーフは花・鳥・風・月
花鳥風月。たしか、自然の美しいもんを並べた言葉やった気がする。
それをモチーフにしおりを作ってくれまへんか、と。
私の美的センスが問われるんちゃうん。
頑張りまっせ!
私はさっそく【部屋】でしおりのデザインを考える。
花は桜を中心に作った。
古文でも花と言うたら桜やと散々言われてきたからね。
鳥はキジを中央にデザインした。
日本の国鳥やもん。少なくとも花鳥風月を言うてくる人には伝わるやろう。
月は満月と川を良い感じにあわせてみる。
月光が川の水に反射している風景はきっと綺麗だ。
困ったのは風だ。
風だけ具体的なものがみえない。
「風……風……」
部屋の中で手をひろげてくるくるまわってみる。
何も思いつかない。
「風……風になびく姐さまの髪は綺麗だろうなぁ」
風になびく月光色の髪は絶対きれい。美しい。
簪でハーフアップにされた髪が風でなびくのを私はみたい。
……ってこれは私の願望やないかい!
でも風になびく何か、というのはありだな。
川辺に生えた植物が風になびいている。その川には月が反射している。
そのそばではキジが飛び、桜が咲いている。
表紙と裏表紙がつながる本的な感じで四つのしおりのイラストをつなげるのはアリかもしれん。やってみるか。
2Dは苦手だが、なんとかラフを描いて、そこに頂点を合わせて形にしていく。
「これに厚みをつけて、素材も決めて、完成やぁ!」
なかなかにシャレたものができたと思う。
試しに一つ印刷してみる。
「うむ。これは自分用に一つ欲しいな」
それくらい上手にできたのだ。これを挟むための小説も漫画も今はもっていないけどね?
原作者もこっちに転生してくれたらいいのに、なんて思ってしまう。
私は悲しくなりながらも100片ずつ印刷した。
「
そしたら、また作品を読みたいな。
私はそんなことを考えながらギルドへの道のりを歩いていた。
考え事をしながら歩いていると誰かにぶつかってしまうのは必然といっても過言ではない。
「うわ!」
「あ、ごめんなさい」
あわてて謝る、が時すでに遅し。
「なにしてくれんなこの小娘が!」
気の強そうなエセ陽キャっぽいお姉さんに殴られた。
「ごめんなさい!」
「は? あんたみたいなブスが謝ったところで何の利益もないっつうの」
きっちり90度のお辞儀をしても殴られ、蹴られ、散々だ。
しまいには馬乗りになって殴ってくる。
これは反撃しても良いよね?
私は全腹筋を駆使しておきあがりつつ、お姉さんの顔面を手のひらで押し返した。
するとひょろっとしてるお姉さんはそのまま頭からぶっ倒れた。
痛そう。でも、私悪くないよね? 軽く押しただけだもん。殴ってきたからどうにかしようと思っただけだもん。
謝って、怪我してたら治療代だそうと思ってたもん。
「きゃぁぁあああ! 誰かー! 私、こいつに殴られました!」
なんだコイツ。確かにぶつかった私は悪かったと思ってるが、ここまですることなくない? 面倒なのにあっちゃったよ。
お姉さんの悲鳴によってわらわらと人がやってくる。
でも男の人ばかりだ。しかも、顔の系統も似てる。
似たタイプのイケメンがやってきた。
「こいつに殴られました……」
やってきた中で一番顔の良い男に泣きついている。嘘泣きの上手な人だ。
うまく男の目を盗んでにやにやとこっちを見てくる。
「違います。私が少しぶつかってしまって、謝ったら殴られ蹴られ、最後には馬乗りになってボコボコにしてきたので逃げたらこの人が倒れただけです」
私は端的に正確に説明した。
これを聞けばちゃんとわかってくれるだろう。
だがお姉さんはすすり泣きながら「嘘つき! 嘘つき!」と言う。
これでは周りは何が真実かわからないだろう。
「よし。じゃ殴り合って強い方を正しいとしよう」
んな雑な決め方でいいの?
「別に良いですけど」
真羽さんに鍛えてもらったから多少は自信がある。
少なくともあのお姉さんには負けんぞ!
「わかりましたわ。誰か、あの小汚い小娘をわからせてくださる素敵な殿方はいらっしゃいませんか?」
猫を被るのが上手な人だ。反吐が出そう。
てか自分は戦わないのね? そういうのありなのね?
向こうはお姉さんが抱きついていた強そうなイケメンが戦うことになったらしい。
「お嬢ちゃん。俺が戦ったろうか? 抱かせてくれんなら勝ってやるぞ」
群衆の中の、制欲丸出しで気持ち悪いおっさんに声をかけられた。
メイドカフェとかでメイドさんに触ろうとして出禁になってるおじさんとかよりも気持ち悪い。グッズを買いに行ったついでにふらついてたら出会うおっさんとかの比じゃない。
これは一般人の出せる気持ち悪さじゃあない。
多分スキル【気持ち悪い】とか持ってるんだろうな。知らんけど。
とにかく気持ち悪いので無視する。
が、周りの人間から野次が飛ぶ。
「抱かれるくらい我慢しろよ」「あいつに勝てるわけないですよ」「やめときな、嬢ちゃん」
みなが変態に頼ることを勧めている。
ふと女の方を見ると、ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「私にぶつかったのがあんたの運の尽きよ。私のスキル【魅了】でみな洗脳状態にあるのよ。みんな私の思うまま。観念してその男に抱かれてきなさいよ」
不快だ。
あの異常なほど気持ち悪いおっさんに感じた不快感とは違う。
あのおっさんは私が生理的に受け付けないだけで、別に離れたところにいたら気にならない。だがこの女は違う。
この女は周りの人間を道具として見る、人間としての屑だ。
姐さまは漫画でこんなことを言っていた。
「人を道具としてみたとき、人は死ぬ。父も母もわっちを道具としてみておった。わっちを妹の成長を見るための道具としてみておった」
真羽さんにこの話をしたコマの姐さまは、酷く悲しそうな顔をしていた。
肉体的にも精神的にも強い姐さまが美しい顔をゆがめてつらそうな顔をしていた。
そんな顔をさせた人物と同種の人間がここにいるのだ。
こんな人間が姐さまと同じ世界に存在しているのが許せない。
こんな人間が姐さまと同じ空気で息をしているのが許せない。
こんな人間が姐さまと同じ人間と思われているのが許せない。
私は怒っていた。
私はこの女をいちはやく消し去らなければならないと思った。
「おっさん。うちは強いんや。やからヤリたきゃ別のヤツを探しな。例えば、そこでみっともなく泣いとるゴミクズとか、引っ掛けやすいんちゃう?」
私はそう吐き捨て、男に向き合った。
まずはこいつだ。
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