第10話 今後の計画

「おかえりなさい」


 宿に戻ると月夜さんがうなぎを調理していた。

 タレの美味しそうな匂いがする。


「今日は鰻丼にゃあ!」

「イェーイ!」


 やった。

 鰻が好きだからというのもあるが、何より大好物の鰻丼をを食べる姐さまを間近で見れるのが嬉しい。


「すぐできる。手を洗ってくるのじゃ」

「はーい」


  水瓶で手を洗う。

 戻ったらテーブルに鰻丼が並んでいた。


「みんな揃ったかえ」

「揃ってるにゃあ」

「じゃあ手を合わせて」


「いただきます!」


 私は丼を持って鰻丼を一口分とる。


 ふわふわとした身とパリッと焼けた皮。

 それを熱々のご飯と共に食べる。


 とっても美味しい。幸せだ。

 甘辛いタレがしっかり鰻に絡みついていて美味しい。

 やっぱり姐さまの調理技術は本物だ。


 隣にいる姐さまの方をみると、心底幸せそうな顔をしている。

 食べ方も美しく、口元をタレで汚すことなく綺麗に食べている。

 凄いなぁ。


「そういえば、モカはどれくらい進んだにゃ?」


 聞かれているのは商業ギルドのランクのことだろう。

 出会った頃と比べてかなり進んだからね。


「もうすぐで100件です。かなり進みましたよ」


 ステータスを開き手を差し出す。

 墨花ちゃんたちが私の手に触れるとステータスが共有されるのだ。




 ──────────


 モカのステータス

 肩書:【Eランク職人・商人】【Eランク冒険者】

 スキル【翻訳】【解毒】【自然治癒】【締切前の部屋】【3DCG】


【Eランク職人・商人】

[解放条件]商業ギルドで登録する。

普通の職人・商人。

Eランクの依頼を受けることができる。

Eランクの依頼を出すことができる。

[次のランクの解放条件]

依頼を100件受ける。残り99/100件

または

依頼を500件出す。残り0/500件


【Eランク冒険者】

[解放条件]冒険者ギルドで登録する。

普通の冒険者。

Eランクの依頼を受けることができる。

Eランクの魔物素材を買うことができる。

[次のランクの解放条件]

依頼を100件受ける。残り0/100件

または

魔物を500体倒す。残り412/500件



 ──────────




「あと一件じゃのぅ」

「はい。明日からはDランク職人です!」

「お祝いのケーキを買わないといけないな」

「楽しみにゃあ」


 姐さまとのお店という夢に一歩近づいた。

 とても嬉しい。

 でもそれ以上にそのことを喜んでもらえるのが嬉しかった。


「食器洗いますね」

「いつもありがとうにゃあ」


 私は献立を立てれるほどの料理能力がないので姐さまに夕飯を作ってもらっている。

 でも代わりに食器は私が洗っている。

 できることはやらなくっちゃ。


「モカはどんなお店が作りたいの?」


 食器を運んできてくれた真羽さんに聞かれた。

 確かに何も話していなかったな。

 報連相は大事なのに。


 私は今まで想像していたことを話した。


「キャンピングカー? みたいなお店にしたいなぁと思ってます」


 馬車でお店を引いて移動しながら商売をしたいと考えているのだ。

 売り物はアクセサリー類にしようと思っている。

 量産品と受注生産の2本立てでやっていこうと思っているのだ。


「受注生産のとき、真羽さんにアイデアスケッチを担当して貰いたいなって思ってるんですけど……」

「面白そうじゃん。いいよ。ダンジョン攻略とか、他の仕事もあるから週に1、2回くらいになりそうだけど。それでも良いならぜんぜんやるよ」

「ありがとうございます! はやくCランクになって実現できるよう頑張ります!」

「おう! 特訓も頑張ろうね」

「はい!」


 ひとまず真羽さんの協力が得られたのが嬉しい。

 これで一安心だ。


 真羽さんたちは冒険者ギルドの治安維持部隊【女神の剣】に所属しており、治安を乱す要注意組織への対処に駆り出されることがよくある。

 Cランク以上になると入れるらしい。

 ちなみにだが商業ギルドにも治安維持部隊【女神の天秤】がある。

 商品の価格をみんなで話し合って決めたり、不公平な卸し方をしたりして、適切な価格になるのを邪魔する連中をやっつけるらしい。


「一応【女神の剣】が守っているけれど確実じゃない。明日も気をつけて行くんだよ」

「はい。わかってますよ」


 食器洗いが終わったので、私は姐さまと炭花ちゃんのところへ行く。


「姐さん。炭花ちゃん。ちょっとお話しいいですか?」

「モカ! どうしたのにゃ?」

「ちょっとお店について話したいことがあって」


 炭花ちゃんと姐さまにも同じ話をした。


「お二人には接客と護衛をして貰いたいです」


 行商人というのはよく山賊やら荒くれ者やらに襲われる。

 だから必ず護衛が必要だ。

 姐さまたちはすごく強い。護衛をやってもらえるとすごく嬉しい。


「良いぞ」

「任せてにゃん」


 やったぁ。

 これでCランクになった後のビジョンが見えてきた。

 馬車で移動しながらあちらこちらで商売をする。

 週に一度は受注生産も行う魔法のキャンピングカー。


 絶対楽しい。

 はやくCランクにならなくては。


「さて、私は部屋に戻るよ」

「あ、炭花も戻る! モカ。明日は頑張るんだにゃん!」


 私はそれぞれの部屋に戻る真羽さんと炭花ちゃんを見送った。

 今の収入なら姐さまと別の部屋を借りることもできるのだが、姐さまが心配だというので一緒の部屋にいる。


「ほれ。マッサージをするぞ」


 姐さまはいつも寝る前にマッサージをしてくれる。

 月夜さんの雪のように白い手が私の足をほぐしていく。

 ふくらはぎの上を指が滑ったと思ったら強く揉まれると、走ってむくんだ足がだんだんと細くなっていくのだ。


「モカは綺麗な足をしているのぅ」


 姐さまは私の足に触れるといつもそう話す。


「肌もすべすべで、傷一つない。こうやって揉みほぐしてやれば整った筋肉のつく綺麗な足が出てくる」


 姐さまの足には大きな傷がある。

 前に見せてもらった。

 あの痛々しい傷跡は転生前にできた傷なので治ることはないんだとか。


「わっちは妹が死んだ時、取り乱して自分で足を切りつけてしまったのじゃ。切れ味の悪いカッターで何度も何度も切ってい

た。今思えば愚かじゃ。だが当時は傷で悲しみを形にするのが精一杯だったんじゃ」


 姐さまは私にこの話をするとき、私でない誰かと話しているような気がする。

 私を媒介に誰かと話ているような気がするのだ。


 姐さまは私に重ねた相手に許しを求めているような声で話している。

 ずっと気になっているが、今日も聞けずに眠りについた。

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