第7話 大阪魂
「あれ? 消えてる……」
「モカは気にせんで良いぞ」
気にするなと言われても困る。
目を開けたら人が消えてたとか謎すぎる。
でもその場では聞きづらかったので寝る前に聞くことにした。
「あの、昼間は何があったのですか?」
「このことはまだ話していなかったのぅ。この世界では、人は死ぬと一度消えるんじゃ」
なんとも驚きだ。
消えるなんて普通に死ぬよりも酷い。
「でも一週間もすれば復活する」
復活するんだ。ならちょっと消えるのも仕方ない。
「この世界は荒くれ者が多い。特に冒険者は血の気が盛んな者ばかりおる。じゃが安心せい。何があってもわっちが助けてやるぞ」
頼れる人間がいる。それがすごく心強かった。
その夜は心身の疲れのためにいつも以上に深く眠りについた。
翌日。私はまた依頼を受けるためにギルドに向かった。
昨日のこともあるのでギルドまでは姐さまがついてきてくれた。
安全な道を解説する姐さまの声を暗記したのでもう大丈夫だ。
姐さまは弟子二人に引きずられるようにしてダンジョンへ行った。
これを尊いというのだろう。
私はまた適当に依頼を取った。
今日も稼いで姐さまに貢がなくてはならない。
そうそう、昨日は給与を宿代世話代その他もろもろのお礼として姐さまに渡すと驚かれた。
「一日で、これだけの稼ぎを?」
魔物を沢山倒せた時でも日給はこの半分にも満たないらしい。
冒険者って大変なんだな。
推しに貢ぎまくりたいが今日はとりあえず一枚だけにした。
ただでさえ部屋のおかげで速いのに複数個の依頼をマジックのように消してしまったら悪目立ちしてしまう。
一個ずつやれば、多分、まだマシなはず。
「依頼は何ですか?」
依頼票を読む。
思わず吹き出してしまった。
でもこれ、私は悪くない。依頼主が悪い。
大阪名物達の顔出しパネル:50,000mol
備考:あなたの思うままに作ってください
これは仕方ないと思う。
まさかこんなのがくるとは思っていなかった。
だが依頼は依頼。
これでも大阪生まれ、大阪育ち、道頓堀を縄張りとし、梅田の地下ダンジョン攻略済み。
ここで受けれんでどうするっつう話だ。
「ちょっとマジでやらせてもらうで!」
私は早速【部屋】にこもって作業を始める。
今回大変なのは、大阪名物たちを描くことだ。
何しろ資料がない。
しかも私、2Dは苦手だ。
さて、どうしたものか。
資料は大阪根性でどうにかするとして、2Dはきつい。
……立体顔出しパネルにするか。
というわけで大阪のミナミをイメージしたモニュメントを作る。
そして雑に作っておいた顔を全部消す。
あと背中もいい感じに消して中に入れるようにする。
塗装と材質決めをすませて印刷する。
「ええ感じやん」
それっぽい顔出しパネル(3D)が出来た。
あとはこれが褒められるか怒られるか確かめにいかなければ。
商業ギルドに運んで納品しようとすると止められた。
「これは依頼主さんからチェックが入る依頼ですね」
どうやら依頼主がこれでいいかチェックするらしい。
緊張する。
依頼主は少し離れたところに住んでいるらしく、30分ほどで来た。
感じの良さそうなおじさんだ。
タコ焼きみたいな綺麗な頭をしてる。
私は明石焼き派だけどね。
「おお! えらい別嬪さんが作ってくれたんやなぁ」
やっぱり大阪人だ。
西成らへんで朝っぱらから飲んでそうな感じがいい。
「どれどれ……おいおいお嬢ちゃん。立体になってもうてるやん。流石やな! 新世界とかの立体もんと顔出しパネルの融合……最高や!」
喜んでもらえた。良かった。
「大きいからまた取りにくるわ。報酬は倍にしとくで!」
おじさんは手を振りながら帰っていった。
「おおきに!」
私は商売人らしい言い回しで見送った。
憧れてたんだよな。
タコ焼き屋で「おおきに!」って見送ってくれるお姉さん。
なんか感じ良くて好きやった。
元気やっとるやろか。
ぼんやりしてたら報酬が渡された。
「良かったですね! これからも良い品物を作ってください」
ずっしり重いmolをもらって帰路に着く。
今、私の手元には100,000molがある。
何か姐さまにプレゼントを渡したい。
初任給(一日遅れだけど)で何かを買うってのは定番だ。
だから私も何か買いたい。
という訳で市場に行った。
何を買うと決めることなく市場の中をフラフラ歩いていく。
「団子が焼きたてだよー」
「いい茶葉が入荷できましたよ。ケーキと紅茶はいかがですか?」
活気のある良い市場だ。
歩いていて心地よい。
あちらこちらへ目を向けているとふと目につくものがあった。
黒の蝶だった。
ガラスでできたような黒の蝶々が羽ばたいては同じくガラス製だと思われる花に戻っていく。ずっと同じ動きを繰り返している。
「綺麗ですね」
「おや。良い目をしているね。その蝶は私のスキルで作ったんだ。蝶は必ず花に戻ってくる。私が保証するよ」
花には金具が付いていて、何かと組み合わせてアクセサリーにできそうだ。
私は閃いた。
「これ、おいくらですか?」
「3000molだよ」
……相場がわからん。
でも姐さまに似合いそうだから良いか。
困ったら私が稼げばいい。
そのうちダンジョンに行って、自分で魔石を取れるようになればこれくらいどうでも良くなるだろうし。
「はい」
「ちょうどだね。はい」
花を渡された。
蝶々も付いてくる。
「ありがとうございます!」
私は店から離れた。
去り際お婆さんが高、つぶやいた気がした。
「良いことがあるよ」
気になって振り向くと、不思議なお婆さんとお店はまるで元からそこになかったみたいに消えていた。
「何だったんだろう」
疑問に思いつつも宿に戻った。
私は【部屋】に入りパソコンを開く。
私はあの蝶を簪にしようと思うのだ。
蝶と簪。絶対あう。
月夜姐さまの髪が風になびくのを見るのも好きだが簪も似合うと思う。
どんどこどんで作って印刷して組み立てて。
あっという間にお洒落な簪の出来上がりだ。
帰ってきたら姐さまに渡そっと。
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