第4話 事件の気配

「わっちは魔石を取りに行くが、其方はどうする?」

「どうすると言われても……この世界の仕組みがいまいちわかってなくてですね……」


 中学生だもん。仕方ないよね?


「何か目標はあるにゃ?」


 墨花ちゃんが聞いてくれる。声がくっそ可愛い。


「目標というより夢ですが、その、自分のお店を持ちたいなって思ってます。キャンピングカーみたいにして皆さんと世界中を旅しながら商売できたらなぁって」


 何をしたらそうなれるかはさっぱりわからない。

 ただ推しと暮らしたい。

 それしかないのだ。


「それは、いい願いじゃのぅ」


 姐さまの目が私じゃない誰かをみているような気がした。

 気のせいか?


「自分の店を持ちたいなら商業ギルドに行き、依頼を受けるがよい。沢山受ければ、ランクがあがるぞ」


 姐さまの目線が戻ってきている。

 さっきはどうしたんだろう……?


「依頼は商業ギルドで貰える。行ってきな」

「わっちもついていくぞ」

「月夜さん。今日こそは一緒にきてもらいますよ」

「姐さま。三日もサボってるにゃあ」

「それはこの辺を荒らすゴミ屑供を絞めるという大事な仕事があったからじゃ」

「でも今日は違うにゃあ」


 推しと推しが揉めてる。可愛い。

 でも、止めないと。師弟関係の悪化は良くない。


「私は一人でも大丈夫ですので。姐さま。弟子を困らせてあげないでください。真羽さんも、炭花ちゃんも、頑張って!」


 私は三人を置いて宿を出た。


「ええっと、商業ギルドはこっちなはず」


 私は自分が方向音痴であることを忘れていた。

 フラフラとさまよっていると包帯を巻いた怖い人たちにぶつかってしまった。

 傷だらけでも目付きや雰囲気から悪い人だと感じ取れる。

 こりゃまずい。


「ごめんなさい!」


 謝ってすぐ逃げた。

 謝罪大事。


 本来ならちゃんと謝って許して貰いたいが、今の方々はどうみてもカタギじゃなかった。

 こういう人たちからは逃げるしかない。

 関わろうものなら道頓堀に沈められる。

 白髪のおじさんや酔っ払いのおっさんの友達ができそうだ。


 そのまま走っていたら商業ギルドをみっけ。

 さっさと中に入る。


 中は賑やかだ。

 机で商談をする商人たち。酒によって気持ちよさそうに寝ている職人たち。

 そして依頼を受けるために掲示板を見る人々。


 商業ギルドにいる人々は2種類に分けられる。

 商人と職人だ。


 商人はギルドのない地域から安く買い取った商品をギルドに卸したり、ギルドに依頼を出して品物を買い取り、向こうで売っぱらったりする。

 たいてい移動に関するスキルか物を沢山持てるスキルを持った者がつく。


 対して職人は自ら商品を作り、売る人々だ。割合的にはこちらが多い。

 私のように物作りに便利なスキルを持つ者がつく。


 と姐さまから聞いた。


「掲示板は……これか」


 掲示板にはランクごとに依頼が貼られている。

 自分のランクの依頼のみ受けることができる。


「Eランクは何があるんだ?」


 ずらっと並んだ紙を読んでいく。




・木のコップ100個。30,000mol。

・木の椅子四脚。80,000mol。

・木の置物(猫)。5000mol。




 なんというか、しょぼい。

 パッとしない。


 Eランクだからしょうがないとは思うよ?

 でも、地味すぎる。

 これを100件こなすまでDランクになれないとか酷い制度だよ。


 依頼はずらっと並んでいる。

 今張り出されたばかりらしい。

 毎日これくらいの時間に張り出されるのだとか。


「ええい! 100件がなんや! いくらでもやったるわ」


 私は適当に10枚依頼の紙を取り、商業ギルドを出た。

 依頼の締切は物によって違うが大々一週間程度。

 それに間に合うなら何枚とっても怒られない。

 逆に間に合わなかったら怒られる。

 生活指導の先生の何倍も怖いらしい。


「また愚かな新人がいるよ」

「哀れだ」


 なんて視線で見られてるけど気にしない。

 私のスキルがあればこんなのチョチョイのチョイなんだから。


 さっそく部屋に戻って依頼品を作っていく。


 一つ目。木のスプーン30個。

 地味だなぁ。

 適当に球を削ってすくうところを。さらに引き伸ばして持つところを。

 いい感じに滑らかにして、素材を木にして印刷しまくる。

 30は多い。

 とりあえず10個くらい魔石を放り込んでおく。


 印刷している間に次の依頼を。


 二つ目。木のフォーク。30個。

 やっぱ地味。ほんでスプーンとセットかな?

 先ほどのスプーンを平らにして、切り込みつけて完成だ。

 魔石は足りなくなったら追加しよう。


 三つ目。木のナイフ。30個。

 やっぱりセットだこれ。

 今度は正方形から形を整えて厚みをつけて、円柱にブッ刺した。

 はやいはやい。


 この調子で木製の食器類を作った。

 ちなみに残りのラインナップは以下の通り。


・お箸

・大皿

・小皿

・お茶碗

・スープ皿

・どんぶり

・おぼん


 全て木製だ。

 そして全て同じ依頼主だ。


 ……地味というにも程がある。

 最初はこんなもんなのか?

 RPG系のゲームは遊んだことがないからよくわからん。

 なろう系小説での知識しかない。


印刷はぴょこぴょこいくが、それでも時間がかかる。

【締切前の部屋】がなかったら大変だった。


 ささっと作りあげてギルドの方へ持っていく。

 今度は変な人にぶつかることなく行けた。

 ただやっぱり道はわからない。


「納品場所は……あった!」


 列に並んでと声をかけられた。


「お嬢ちゃん。さっき依頼を取ったばかりなのにどうして納品の列に並んでいるんだい。ヘルプセンターはあっちだよ」

「いや、納品をしにきたので」


 「部屋」に手をつっこんで納品する品物の一部を見せる。


「え? はやすぎ……ない?」

「スキルの力です」

「あ、ああ。そうかい。そうかい。まぁ頑張って」


 おじさんはどこかへ行った。

 おじさんの後ろにはさっきぶつかった包帯を巻いた人たちがいた。


 やべ。

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