第3話 主人公・ヒロインの登場

 朝起きて、日課の筋トレとストレッチをした。

 身支度を整え、姐さんと朝ごはんを作っていると誰かがきた。


 ん? この声、いやこの声帯は知ってる気がするぞ?


「月夜さん。おはようございます」


 来た。もう来てしまった。


 私の推し作品の主人公。

 月夜姐さまの一番弟子。

 パールのような白の髪。カラスの羽ような黒の袴。

 少し口は悪いけれども美しくかっこいい彼女は真羽まうさんだ。


「おはようございます。姐さま、今日の予定を教えてにゃん!」


 もう一人、別嬪さんが来ちゃった。


 私の推し作品一のヒロイン。

 月夜姐さまの二番弟子。

 桜の花のような白の髪。墨のような黒の給仕服。

 同じ黒の猫耳と尻尾のついた彼女は墨花すみかちゃん。


「は、初めまして」


 2Dで美人な人って3Dでも美人なんだね。

 いや色々作る中で3Dの良さは知ってるけどそれでも素晴らしすぎる。


「姐さま。この方はだれにゃ?」

「昨日降ってきた。かなり商売向きのスキルを持っておるぞ」


 姐さまが私のことを詳しく紹介してくれる。

 その間、私は二人のことを観察していた。

 服装はほとんど変わっていない。

 だが、まとっている雰囲気が違う。

 リアルで会うのが初めてだから、という訳ではない。

 ただ、どことなく大人っぽくなっているのだ。


 特に炭花ちゃん。

 髪がかなり伸びている。

 それに尻尾の先が分かれている。

 ……猫又になったの?


 真羽さんも少女から大人の女性へと変わっている。

 簪でまとめていた髪も今は下ろしてある。


「この二人はわっちの弟子じゃ。この背の高い方がトップになる為にわっちが死んだというのに、たった10年で死によった」


 なんと、一応ハッピーエンドだったあの物語、最終的には真羽も死んじゃうらしい。

 え、つら。

 泣いていい?


 てか10年も経ったなら二人とも年上になってる。え、やば。


 私が悲しみにうちひしがれているうちに自己紹介が済んでしまう。

 さて、どうしようか。


「月夜さん。このモカっつう奴のスキルはなんですか?」

「魔石の加工じゃ。何にでも加工できる」


 【締切前の部屋】のおかげで時間はほぼ無限にある。

 何でも作れちゃうぞ!


「何か欲しいものとかありますか? 転生の時に無くしたものとか」


 すごい別嬪さんに話かけてるから声が震えそうだ。

 てか肌に一つもニキビない。羨ましい。


「無くしたもの……簪は作れるか?」


 あ、無くしたのか。

 特徴的なデザインで、彼女の概念としてよく描かれていた。


「作れますよ。デザインはどんな感じにしましょうか?」


 一応聞いておく。

 デザインは覚えているが、それをそのまま出しては不審だ。


「ほれ、紙じゃ」


 姐さまが真羽さんに紙と万年筆を渡した。

 少し前に万年筆の職人さんが降って来てから万年筆が流行ってるのだとか。


「こんな感じのだ」


 うん。原作通り。

 てかこの人作画担当か?

 めちゃくちゃ絵が上手いし絵柄が漫画そのままだ。


「私の首輪もお願いできるかにゃ?」


 炭花ちゃんの首輪もないね。

 作ってあげようじゃないか。

 だってこんなに可愛いのだから。

 語尾にゃあとか最高すぎる。


 これまた真羽さんにデザインを描いてもらった。

 なお炭花ちゃんの絵は芸術的すぎて資料にはならなかった。

 猫だし、仕方ない。


「ご注文承りました! 少し待っててくださいね」


 私は例の部屋に入る。


「これを作るのは久しぶりだなぁ」


 パソコン(木製)の前に座って思った。

 あ、机はさっき作った。

 姐さまが大量の魔石をくれたのでありがたく使わせてもらったのだ。


 真羽の簪はコスプレの小道具として何度か作ったことがある。

 何度か、というのはよくデータを無くしていたからだ。

 データが残っていれば、何個も同じものを作れる。


「まずは形を作って、その後色をつけて、印刷だ。頑張るぞ!」


 工程を確認したら作業開始。


 とりあえず形はざざっと作ってしまう。

 久しぶりに作ったので少し時間がかかってしまった。

 でもまあこの部屋の中だから大したことないはず。


「ついで色だね」


 二人のアクセサリーには髪の色が関係している。

 真羽のものはパールが使われているし、炭花のものにはうっすらと色のついた桜色の宝石がついている。


 3DCGではマテリアルを設定する。

 それで色や透明度などを決めるのだ。

 パラメーターをいじるだけで艶のあるパールも桜色の宝石も作れてしまう。


「よし。こんなもんか」


 いい感じにできた。

 さっさと印刷して二人に渡そう!

 ……喜んでくれるといいな。


 魔石をセットしてどんどこどんで出来上がり。

 3Dプリンターと比べてめちゃくちゃはやいのがありがたい。


「できましたよ!」


 部屋から出て、二人に手渡す。


「これだよ。私が無くしたやつにそっくりだ」

「私のもそっくりにゃあ! でも綺麗になってるかりゃ、これはモカが作ったものにゃ」


 そうそう。私が盗んだわけじゃないからね?


「これは売れるじゃろう?」

「はい。魔石を売るよりずっと良いっすね」


  テッテレーン! 真羽が仲間になった。


「可愛いキラキラ、もっと作れるにゃ?」

「たっくさん作れるよ」

「ならいっぱい手伝うにゃあ!」


 テッテレテレテーン! 炭花が仲間になった。


 というわけで二人も協力してくれることになりました。

 ありがたい!

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