第25話 別れ
ユニの声が耳に届くと同時に、京極の拘束が解けた。自由になった体とは裏腹に今度は頭が回らない。ユニがこの状況で何を言っているのかすぐには理解できなかったが、牢でレイブンと別れる前にした会話を思い出す。
京極の最も大切な人は誰か、という質問。それに対し京極は迷うことなく両親だと答えた。つまりユニは今、京極の両親が命の危機に瀕していることを伝えている。レイブン曰く、ユニの秘匿を使えば両親の元へと行けるだろう。だが、目の前で起きている状況をどうにかしたいという思いも京極にはあった。
「レイブン、今助け――」
「手ぇ出すな!!」
レイブンは京極の介入を拒む。ラースの生み出す無数の魔法が球となって放たれ、色とりどりの放物線を描きながらレイブンに襲い掛かり、それをレイブンは槍と炎で撃ち落としていく。じりじりと戦線を押し下げられるレイブンの足元には血だまりができていた。
「これは俺たちの問題なんだ」
「俺の問題でもあるはずだ!」
「違う!!」
力強いレイブンの言葉に気圧される京極。彼は口から血を流しながらも言葉を続けた。
「お前は『京極ノリト』だろ。だったら、お前の大切な人を助けろ」
この世界を救った勇者ノリトはもういない。過去の幻影を追い求め、それを京極に押し付けようとすることは間違っているというのがレイブンの導き出した結論だった。
「俺は、俺の大切な人を助ける」
レイブンは大きく息を吸い込むと、今一度槍を持つ手に力を込めて地面を強く叩いた。するとレイブンを包むようにドーム状の炎の渦が生まれ、広がりながら攻撃をかき消していく。
ビッグバンの如く広がった炎は建物の全てを飲み込んだ後、消えてしまった。残っているのは幾重にも魔法壁を張って耐え忍んだラース、息も絶え絶えながら立ち続けるレイブン、そしてユニに覆いかぶさって巻き添えを防いだ京極。
今にも崩れそうな天井と黒焦げになった床の間で、レイブンが低い姿勢で槍を構え、穂先をラースに向ける。彼女の顔は煤で汚れていたため、涙の跡がくっきりと残っていた。
彼女もレイブンを傷つけたくはないのだ。しかし、ノリトを失いたくないという思いが彼女を狂わせてしまった。どうすれば良いのか、どうすれば良かったのか。彼女自身はもう分かっていない。ただ、溜まっていた負の感情がとめどなく噴き出してしる。
だから、レイブンはそれを止め、彼女を救うのだ。
「王族特務、炎聖騎士レイブン。この命を王女に捧げます」
レイブンが名乗りを上げる。ラースは強大な魔法を放つために魔力を貯め、背後には七色の光の輪が波紋の様に広がっていく。京極はユニを抱きしめながら、レイブンの背中を見ていた。
「じゃあな、親友」
「待てよレイブン!」
別れの言葉を告げるレイブンに手を伸ばす京極。
「あとは任せたぜ、ユニ」
「さよなら、レイ……」
京極の腕の中でユニはひび割れた地面を強く叩き、穴を開けた。小さな穴は自然に壊れていき、ユニと傍にいた京極を飲み込んでいった。
落ちていく闇の中で京極はレイブンを思う。
ノストラを襲った侵入者レイブン。青い髪の獣人で槍使い。乱暴な言葉遣いと仲間想いな性格の彼との別れを京極は忘れないと誓った。
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