第11話 親友
燃え盛る炎の壁が京極と侵入者の男を包み込んだ。一般的な生物より熱に強い肉体を持つブレインズでさえ耐え難いほどの熱を発する結界の如き火炎。前には槍を持つ青年、後ろには身を焦がす炎。逃げ場のない状況に京極は気後れした。
それに加え、青年の言葉と行動が京極にとっては気がかりだった。「やっと見つけた」という言葉には京極を探していたという意味が込められており、一直線に駆け寄ってきた様子には京極との接触を重要視していることを示している。
逃げ場のない一対一の戦場で目的の分からない相手と正対し、京極は警戒心を高めながら武器を手に取る。
逆手に構えたのは腰に携えていた忍者刀。鈍く光るそれは長さこそ一般的な剣に劣るが、軽さと使い勝手で勝る武器であり、加えて京極の刀は柄の部分に改造を施してある特注品だ。刀を持つ手が見えないよう手甲で覆われている。
だが、京極は思わず構えた刀を下ろしてしまった。それは青年が思いもよらぬ行動に出たからだった。
「やっと会えた……!」
青年が京極を強く抱きしめた。呆気に取られる京極。視線を横にやると、すぐそこでは鮮やかな青の髪が熱気で静かに揺れている。戦うべき相手が無防備に自分の懐で感慨に浸っているのであれば、その隙を逃さず攻撃を加えるのが最適解と分かっていながらも京極は行動に移せないでいた。
「随分とまあ変わっちまったなあ、ノリト」
「どうして……俺の名前を……?」
両肩に手を置き、まじまじと京極を見つめた青年が口にした名は間違いなく京極の名だ。その名を呼ばれた時、京極の脳裏に見たことのない光景がぼんやりと広がる。京極の知らない友人、知らない仲間、知らない恋人。彼らが京極の名を呼ぶ。
「どうしてって、俺はお前の親友だぜ?それに姿形が変わっても俺は匂いで分かる」
「俺には……わからない……。お前は誰なんだ……!いったい何がしたいんだ!?」
京極は割れるような痛みを感じ頭を抱えながら答えを求めた。この世界に生まれて一年、たったそれだけの記憶しか持たない京極には、青年の事も見知らぬ人々の事が分かるはずがない。それなのに、どうしても知りたくなってしまった。
それは青年の正体や目的だけではない。自分とは何者なのか。彼らは何者なのか。自分はどうやって生きて来たのか。どうしてこの世界に生まれたのか。何のために生きていくのか。この世界とその意味を知りたくなってしまったのだ。
瞬間、京極の脳から
「今は時間が無え。あとで全部教えてやる」
青年は倒れ込む京極を受け止め、耳元で優しく呟くと京極の身体を地面へそっと寝かせ、ローブで隠されていた背中のふくらみに声をかけた。
「ユニ!仕事だ!」
「あいあ~い」
背負われていた小さな人影が青年の背中から飛び降りた。それは1mもない小さな体にくりんくりんの茶色の髪、そして小さな獣の耳が髪の間から顔を覗かせている。とはいえ、それは青年の三角形にほど近い形の耳とは異なり、丸みを帯びた可愛らしいものだった。それだけで、青年と子供の獣の種類が異なるのだと分かる。
京極は薄れゆく意識の中でユニと呼ばれる子供の姿を見た。当然、京極はその子のことなど知らないが、ユニは京極に笑顔で手を振っていた。
「とっととやれや」
「やってます~」
「急がねえともう残弾が少ねえ」
「あ~い」
やる気のない返事と共にユニは地面を手で掘り出した。小さな手で砂遊びでもするように、何もない地面を掘り進める。それは本来素手では抉れないような地面だが、ユニはその空間そのものを削りとるように掘り続けた。
「まだかよ」
「もうすぐ」
それほど時間は経っていないが、急かす青年と答えるユニ。ところがユニは急いでいるにも関わらず突然その手を止め、耳をチラチラと動かした。
「来るよ」
レーダーとして反応したユニの耳が敵襲にいち早く気付き、すぐさま青年に伝えた。青年が槍を構えると同時に、何重にも重ねられた熱く厚い炎の壁を抜けてくる人影。その身は業火に焼かれ、髪は焦げ皮膚は焼け落ち、機械の骨格が露わになってなお、使命を果たそうとする気迫があった。
「私たちの
「こっちのセリフだってんだよ!」
白老と青年の剣と槍が交わる。
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