第8話 目標
「秘匿開錠――『
赤平の言葉が終わっても、青年の起こした大きな爆発のように強力な攻撃が起きることはなかった。それどころか赤平にも青年にもその周囲にも、何も変わった事は起きない。
「
青年は再び攻勢に出る。
強靭な肉体のバネで体を回転させながら飛び掛かり、勢いをつけて錫杖槍を叩きつける。だが、赤平の頭部への攻撃はすんでの所で止まってしまった。赤平の双剣が防いだわけではない。何か見えない力によって掴まれたように、槍先が宙で動きを止めたのだ。
「あ˝ぁ!?」
青年は驚きと苛立ちを込めた二撃目を繰り出す。感情任せのリトライではない。赤平の防御を掻い潜るための攻撃。それは高速回転しながら浮遊する三枚の炎の盾をチャクラム、あるいは手裏剣のような投擲武器として操り、槍と合わせて四点への同時攻撃を試みるというもの。
襲い来る火炎手裏剣による一点目、二点目の攻撃を刃で防ぐ赤平。三点目の頭部への刺突は、謎の力がはたらきピタリと制止する。鬼門の四点目、腹部へと迫る攻撃を防いだのは、赤平が大腿に仕込んでいた隠し刃だった。
大腿の外側に沿うように埋め込まれていた刀剣は、腰を支点として自在に展開できるようになっている。それは赤平の対人戦闘における必殺の隠し剣。最も効果を発揮する初撃を防御に使わざるを得ないのは痛手だが、この攻撃を防ぐためにはやむを得なかった。
「まだだ」
赤平には青年の言葉の意味が分からなかった。しかし、攻撃は確かに続いていた。それは隠していた四枚目の円盾。高速回転する炎の刃が赤平の頭蓋を溶断しようと死角から狙っていたのだ。相手を欺くために三枚の盾を展開し、その数を相手に意識させてから温存させていた四枚目を投入する青年の策。
だが、その策は実らなかった。
「どうしたボーイ、そんなに驚いて」
青年の攻撃を耐えきった赤平は煽るように問う。赤平が四枚目の存在に気付いたのは、その攻撃が赤平の頭の後ろで静止してからであり、簡単に叩き落とすことができた。青年の狙いである死角から一撃必殺は、超常的な力によって防がれたのだ。
これこそが赤平の秘匿。
範囲内の生命に対する致命傷を強制的に遮る『刈碍』。護ることに特化した能力故に使い勝手が良いとは言えないが、局所的には有効な力である。実際、この能力の厄介さを知っているからこそ、伊達は安心して後を任せたのだ。
「…………」
「…………」
膠着状態。
それは赤平にとって好都合であった。こうしている間にも要人は退避し、増援が来るまでの時間を稼げる。そうすれば単独である青年に対し、数で押すことができる。だから赤平は自分から攻めず、じっくりと様子を見ていた。
そして、赤平はある事に気が付いた。この青年の青い髪、その中に普通の人間とは異なる部分が隠れている事に気が付いたのだ。
それは耳。獣の耳だ。
犬や猫のような獣の耳が閉じるように髪の毛の上に覆いかぶさっていて、青い耳と青い髪で分かりにくいが見間違いではない。よく見ると先ほどから鼻もヒクヒクと動いている。その動きはまるで本物の動物のようだと赤平は感じ、初めて見るその生物に純粋な興味が生まれた。
「見つけた……」
赤平が青年を観察している間、青年は鋭い嗅覚で最優先目標を発見していた。
「なっ!?待て!!」
青年は脱兎のごとく駆け出した。対面する赤平とは反対に、逃げるように駆け出した。驚きながらも赤平は追走する。だが、青年が炎の刃を倒れ込んでいる無防備なブレインズへと放つ。。
「クソッタレが!」
赤平は踵を返さざるを得ない。狙われた者たちが自身の能力の効果範囲外にいたからだ。伊達を含む負傷者を炎の刃から守った赤平は、遠く離れた青年の行く先を見て、思わず叫んだ。
「ベイビー逃げろ!!」
「もう遅ぇ!」
青年の真の目標は、京極だった。
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