第7話 隠し玉
青年の青い髪が炎と共に揺らめいていた。
「大した事ねえな、脳ミソ野郎どもの巣ってのも」
黒く焼け焦げた地面を踏みしめて一歩、二歩進んだ青年は目当てものを見つけたように立ち止まり、右手に持つ槍を振り上げる。錫杖の遊環のようなリングが槍の先で揺れ、綺麗な音が鳴る。その後、鋼鉄を砕く鈍い音が響いた。
「や…めろ……」
頭蓋と脳を壊される仲間の姿を目前で見ていた伊達は呻き声と共に静止を呼びかけた。伊達は意識はあるものの満身創痍。四肢は粉砕し、左半身までもが高温の炎に晒され融解している。特別頑丈に作られている頭部に関しては、表層が燃えて骨格がむき出しになっているが無事のようだ。とはいえ、動くことなどできるはずがない。
「元気そうじゃあねえか」
いくつかの煤にまみれた機械人形が地に伏す中で青年は真っすぐ伊達の方へと歩を進める。青年の周囲にいたA班の兵の中で、意識があるのは伊達のみだった。伊達は自分に注意を引くことで少しでも仲間を助けようとしていたのだ。
「どこからでもかかって来なよ……」
「じゃあお言葉に甘えるぜ」
青年が大きく槍を振りかぶった瞬間。その瞬間を伊達は狙っていた。関節の多く比較的脆い四肢とは異なり、丈夫な頭部を狙う攻撃は大振りになる。その一瞬であれば青年への一撃は通るはず。加えて両手両足を破壊されたダルマ状態の自分からの攻撃は予想できない筈。そう考えた伊達は最後の一撃に賭けた。
機械の肉体だからこその隠し玉。胸部に搭載した対人散弾。至近距離でのみ有効だが、止めを刺すために相手の方から射程距離内に入ってくれる。
(今だ!)
伊達の胸部から放たれる細かな銃弾の雨。僅かに残った右腕の上腕で体を起こし角度も正確だった。
だが、青年は倒れなかった。
「やっぱりな」
青年と伊達の間には円形の盾が三枚、隙間を生まないよう互いを補完しながら浮かんでいた。それは回転する炎の盾。伊達の渾身の一撃は敢え無く防がれたのだ。
「どうして……!?」
伊達が驚嘆の言葉を吐く。確実に捉えたと思った奇襲。反応で防げるような技ではない。それをなぜ防げたのか。そして青年の表情。怒りと悲しみの混ざり合ったような視線の理由を伊達は知りたかった。
「お前たちはそうやって、俺の大切な仲間を奪っていった……!」
青年が槍を振り上げる。もう伊達に打つ手はない。死を覚悟した伊達は目を閉じ、その瞬間を待った。
「やっぱり俺の方が優秀だな伊達ェ!」
視界を封じた伊達の耳に、激しい金属音と好敵手の声が届く。
「あか…ひら……」
伊達は安心したように男の名を呼ぶと、意識を失った。赤平はそれを横目で確認すると、両手に持つ二刀一対の刀剣を力任せに振り、青年の槍撃と相殺させて互いの間に距離を作った。
「秘匿開錠――」
赤平の言葉に青年は警戒し、三枚の炎の盾を空中に展開する。
「『
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