第6話 侵入者
―生誕式開始1分後―
式典会場は鼠一匹通さない厳戒態勢にも関わらず、突如として開けられた空間の割れ目からひとりの青年が現れ、迷いなく槍を振るった。敵意を持った侵入者に狙われたのは脳と接続されたばかりの機械人形。彼らは現在、襲い掛かる暴力に対抗する術を有していない。だからこそ降りかかる火の粉を払う存在が必要だった。
「脳ミソぶち撒けやがれェ!!」
青年が叫び、火柱があがる。青年の正面にいた十数体のブレインズはたちまち炎に包まれる。しかし、そう簡単に焼け落ちるほどブレインズの肉体は軟弱に作られていない。炎の勢いが小さくなってもなお、人間の原形は保たれていた。
「オラァ!!」
だが、青年はそれを分かっていたかのように二の矢を放つ。一度目の攻撃から止まることなく再度槍を振るい、横一閃。整列していたブレインズ数体の頭部を的確に砕き割る。炎で装甲を脆くして槍術で破壊する一連の動きは完全にデザインされたものであり、洗練された技巧だった。
「来やがったなボケナスども」
口の悪い青年が槍を構えなおした。警備の兵が立ちはだかったからだ。新生ブレインズに数体の被害は出したが、その間にA班は侵入者を取り囲んだ。一対多数。数の上では圧倒的有利。槍の間合いに入らないようにしつつ、青年の逃げ場が無いよう周囲一帯に陣取る兵士。
「銃火器は使うな。子供たちにあたる」
ベテランらしき兵士が仲間に伝える。本来であれば侵入者を近づかせないために遠距離から脅威を排除できる銃火器が主武装として使われるが、すでに懐に入られている今の状況では、ある意味人質が取られているようなもの。流れ弾が護衛対象にあたることなど絶対に避けなければならない。
兵士は構えていた武装を近接のものに切り替えることにした。機械の身体に銃火器を埋め込んでいる者もいれば、状況に応じた外付けの武器を携帯する者もいた。彼らはそれぞれの装備を適切なものへと変更する。その一瞬の隙を逃さず青年が動き出す。そして、その行動を予見していた男が青年と刃を交える。
「私の脳も見ていくかい?」
「きたねえツラ見せんじゃねえ」
卓越した槍捌きに対応するのはA班の伊達だ。両腕の前腕から展開された二爪のクローが激しい音を立てながら槍とぶつかり火花を散らす。徐々に押される様子の伊達だったが、それは狙いがあったからだ。しなやかな体の動きから放たれる速く重い連撃のなかで、伊達は唯一、縦方向の大振りを待っていた。
「捉えた」
その一撃を見切った伊達は左の腕を差し出した。ゆるりと湾曲した二本の爪の間をすり抜け、槍は伊達の左手を砕く。破片とオイルが飛び散るのと同時に伊達は腕を捻り、鋼鉄の爪で厄介な槍を掴みとった。
「グッ……!」
青年は槍を引き抜こうとするが、伊達が片腕を犠牲にした事で深く入り込んだ刃がそれを阻み、遂に青年に隙が生まれた。伊達はすかさず右の爪で青年の喉元を狙い、攻撃の気を窺っていた周囲のA班の兵士も背後から襲い掛かる。
「秘匿開錠――」
寒空の下で息を吐き出すような青年の呟きに反応できたのは、至近距離でその言葉を耳にした伊達だけだった。
「離れろ!!」
伊達は叫びながら、砕けた左腕を肘部分でパージして青年から離れようとするが、その攻撃を避けるにはあまりにも距離が近すぎた。
「『
その言葉と共に、青年を中心とした爆発的な炎が周囲一帯を飲み込んだ。
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