第57話 異世界転生アンチの人たち 4
「人と神が―――共に暮らす世界ぃ?」
黒瀬はカイの話に、心底納得出来なかった。
となりの霧崎はというと、もはやあまり反応しなくなっている。
俺が無視されたわけじゃないが、なんだか嫌な気分に―――コーヒーの入ったカップを宙で止め、水面ならぬコーヒー面を見ている。
いやいや、もうハナシに興味ないのか?
「それじゃあ、
「一緒に暮らす、事さ」
カイはそう言い切った。
意味がわからん―――。
異世界転生……意味不明になった、いやなっていないーーー元からおかしいしわからなかったのだ。
頭痛がする、と俺は思いたいだけの時間がただ続いた。
実際のところ、頭の中に痛みが走らないのが、なんだか苛立つ。
俺がおかしくなったのか?
……いや、頭おかしいのはあの女神どものはずだ。
「何を考えているのか知らんが、暮らせるもんかよ……」
どいつもこいつもクソ野郎———いや失礼か―――クソババアである。
「お待たせしましたぁ」
料理が運ばれてきた―――そうだった、こんな話を三人でしているが、ファミリーレストランだった。
テーブルには、ピザとパスタがいくつも置かれてゆく。
「皿を二つもらえませんかあ」
「ハイ、かしこまりましたー」
女性店員に声掛けする不審者。
笑顔の店員はどことなく、頬に硬直があるように思われる。
緊張していてほしい―――何故なら俺が緊張しているから。
やはり浮浪者が制服姿高校生ふたりと向かい合っているという絵面は―――絵面に、見えるだろうか。
この点を疑われたら、友達の兄ちゃんです、と口走ることにしよう。
そういう準備はしてある―――心の準備。
本当に過敏な人ならば現時点で通報しかねないだろう。
少し待って、店員は取り皿を運んできた。
俺は緊張のせいか、やっとカイの目が―――優しげな瞳だ―――自分たちに向いているとわかる。
「キミらも食べるだろう? 若いんだからァ」
それほど会ったことのない俺に対して、妙に笑んでいる―――ここで警戒を続けなければ忍者の名折れである。
「美味しそうですね」
霧崎も、口数は少ないが会話に参加を続けてくれるようだ。
なお彼女の言うそれは、美味しそうに食べますねあなたは、の意味らしかった。
カイの頬が丸まり、よく動いていた―――。
「ん……そうだね」
咀嚼に忙しいようだ。
食事は続き、あまりお行儀が悪くない程度に、カイは語った。
実はあまりしっかりとした食事を取れなかったこと、俺の存在を知り情報を掴み、それらに集中していたこと。そもそも全部女神のせいでそうなったこと。
女神については同意である―――俺も女神から逃げ回れるよう、腹八分目———いや四分目三分目に抑えてある。
ワイヤー移動ならそれで大きく変わる、響く。
カイの笑みに偽りはないように見える―――俺に対して向けた笑顔ではないと気づき始めた。
「ロクなもん食ってなかった、とか言うんじゃないけれど―――実は
「……食べてます」
目をつぶったまま応える霧崎も、嘘は言っていない―――ジェスチャーで食え食え、と言ってきたカイに従っていたが、小食だった。
カイが、女子に対してだけ態度を変え明るくなる様子はなかった―――だが、そういう男なのではないかと疑った。
俺が疑ってただけだ―――何かしら、この不審者への取っ掛かりは欲しいものだ。
「知り合いの家に転がり込んでるんだけど、そうなるとホラ、
口をもぐもぐさせるカイさん。
「私、この店は普通に美味しいと思っています……」
霧崎は、一ミリも美味しいとは思っていないような顔で言った。
「うむ?」
「ただ、あなたと話していると……味がわからなくなりますね」
俺は少し笑いそうになったが、さて、表情チェックだ―――。
もしかしたらやはり、キレ気味でいらっしゃるかもしれない霧崎さん。
耳前の髪で細かくは窺えなかったが、しかし断固として表情を変えない女子だった。
それがもったいない、と思える容姿でもあった。
俺はここで、席を立つことにする。
カイが視線だけ、皿から離した。
「ちょっとトイレです……あとはドリンクバーも?」
重い学生カバンだけ席に残し、俺は二人から離れることにした。
これはあらかじめ、予定していたことだった。
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