第53話 カイからの手紙 3


「カイと、霧崎で会わせる―――それも、一緒にだ」


 それが黒瀬の考えだった―――近いうちに、以前と同じファミリー・レストランでもいいだろう。

 共に女神に立ち向かう上で霧崎のことは考えなければならない―――切り離せない事項だ。

 丁度いいタイミングで女神を知るとのたまう不審者がやってきたわけだし。


「ちょっ……とそれはカゲちゃん、それは変でしょう?」


 顔色の良くない鈴蘭。

 そんなことを言って、霧崎わかちを不審者のヒトと並べるのか、という考えだった―――考えというよりも、困惑か。

 なるほどクラスメイトの女子に、最近出没した知らない大人、いや不審者、浮浪者を———会わせたいなどというのは、普通ではない、おかしな話だ。

 

 そんな一般的な場合ケースではないんだ。

 黒瀬には―――ただ、タイミング的にはちょうどいいと思った。

 それだけのことだった。


「女神のことを言っているのね……! けどカゲちゃん、だからってそれは変じゃないの?」


 会わせる必要があるのかどうか。

 校下をうろつきまわっている怪しい男は危ないとの説。

 確かに、わざわざ会わせるのも手間になるし、良いことが起きるとは思えない。

 それが世間一般の考えではある。

 ただ―――今の黒瀬からすれば、馬鹿らしいと言える。

 

 危ないだって?霧崎わかちが?

 女神を撃退したあの女が、何をどう危険に巻きまれるだろう、不審者ごときに。

 果たしてどちらの身が危ないというのか―――。

 かりにあの、小柄な女子の機嫌が少しでも悪くなれば、不審者が大ケガすることはあり得る。


「さぁ、よーく考えろよ?」


 黒瀬は黒瀬で霧崎のことについては偽りなく伝えたつもりである。 

 ゆえに少しむすっとしている。

 唇をぎゅっと噛んだのは鈴蘭も同じだった。


「……!」


「女神のことを知りたい。スズ、やっておかないと―――これは時間の問題なんだ」


 女神たちの襲撃をことごとくなしてきた黒瀬カゲヒサ。

 しかし彼は、自分のことを戦闘の達人だとは思っていない。

 女神の対策はしなければならない―――自分が長生きできるように。

 長生きというのは言いすぎかもしれないが―――生き延びなければ。

 

 兎にも角にも、情報を引き出せてこそ、諜報の忍者である。

 そもそもに、霧崎わかちとカイ―――その両方が、女神と接触したり情報を知りたがっている。

 ならばいずれ会うだろう―――その日が、遅いか早いかの違いだと想像できる。

 この機に乗じて、両方の情報を引き出してみるとしよう。


 なんだその目は、スズ。

 なにも戦わせようってわけじゃあ、ないんだぞ。

 

 

 情報を無理矢理に吐かせるという選択肢はある。

 少しばかり暴力的な感情が思考に出てきたところで、言いながら浮かんだ案がある。


 だが……、こっちがガセネタ掴まされる可能性もある。

 手っ取り早いとは思いつつも、同時に、こんなに雑なやり方を想っている―――そうなっている自分に―――なんというか、疑問を持つ。

 畜生、俺のペースは乱されている。


 自分の性質を平和主義、とは考えていない黒瀬カゲヒサ。 

 あの大人、胸ぐらをつかんで尋問、拷問をするのは、効果的だろうか?

 Z世代の忍者はそうは考えない。


「霧崎と不審者———両方やるぞ」


 ひとりひとり話すよりも、一度に二倍情報を得られるのではないだろうか。

 タイムパフォーマンス重視の、大まかな見積もりである。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 女神協会異世界転生課。

 大水晶前に銀髪女神が虚ろな瞳をして立っていた。

 いまだに、過去映像で見た人間界のことに関して、不機嫌な官位長だった。

 ———そんな彼女に、すすすっと近づく女神がいた。


「カリヤさま―――例の少年ですけれど」


日頃、口元に当てている大きな袖腕をおろし、フロスは微笑んでいた。


「次は、わっちが参りましょう―――」


 カリヤは黙ってそれを見つめる。


 




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