第40話 調査する者たち 3
例の忍者について、ボクは尋ねられたようだが―――ボクは返答に少し時間を置いた。
……会えたことは会えたんだけれど、他人に話せる内容はない。
「あ―――、ねっ。 ……その話か」
「どうしたの~? ガセネタ掴まされたのかい?」
疑惑の声がのびのびと、飛んできた。
嘘をついたりするつもりなどないが―――、黒瀬カゲヒサ。
不審者と高校生の関係だった―――それが第一印象だ、与えた第一印象だ。
当然の展開で自然の展開。
だから結果としては……進捗なし。
「———上手くいかなかった、だーいぶ警戒されてる……」
「ははッ」
熊のような男が笑う―――。
笑い出した時だけは、女染みて高い声になった。
ボクが持ってきた『令和忍者』の話———その実力に対して、がっつり疑いの目を持っていたのだった。
ボクは語調を荒げる、荒げてみる。
「いやいや!想定はしていた、ファーストコンタクトだからうまくいかないのは当たり前だろ!」
これから少しずつ親睦を深めるのさ。
自分とは違う方法で女神を回避している黒瀬カゲヒサ。
令和忍者として女神からも認知されている彼の力……きっと必要になる。
なにより、意思を持って行動しているように見えた―――彼もまた、異世界転生を望まない。
女神の異世界転生に対抗する者だ。
「ま、長生きはしたいよね」
他人事のように呟き、カタカタと、また画面とキーボードに向かう彼だった。
モニターを眺める目は小さいように見える……身体に対しては、だけれど。
ボクが知り得ぬところで、彼は多くの友人を持っているようだ。
情報提供者と言ってもいい―――ネットの海は広大で、当然ながら『女神』についてのサイトも複数存在している。
既存の神と区別するためなのか、転生女神と呼称される場合が多いそうだ。
今はSNSサイトを利用しているようだ、彼のものらしい熊のようなアイコンが見えた。
丸っこくデフォルメされたデザインだ。
可愛らしいキャラクターになりたい願望でも、あるのだろうか?
パソコンをまともに扱えないボクには(彼からはそう言われた)、ちょっとわからない文化ではある。
彼の場合、ふざけている態度が散見されるが、情報を一通り集めてしまい終えている節があるからである。
最近では数字が動いているだけで、別に声を荒げるようなことが起こっていない、というような苦言を呈された。
転生のことだ―――当たり前になってしまった女神の行動に、慣れてしまっている自分がいる。
とにかく、高校生忍者はまだとっかかりを作ったのみである……時間はまだある。
「ま、タイミングさえあれば会えるさ、キミも」
「出来るのぉ?」
そこを何とかしていく予定である。
決して状況が悪いわけではない―――とボクは考えている。
彼のような非常識な達人が、未だ神の側に付いていないところは
先日も、激しく生きるか死ぬかの世界を立ち回っていた。
現時点では無事に元気に、抵抗を続けている。
ただ、連中との対話やパワーバランス次第では、黒瀬カゲヒサが女神側に付くこともあり得る……。
いま接触できたのは、僥倖で幸運———間に合ったと言えるだろう。
令和忍者。
「まったく、親の顔が見てみたいよ―――面白いったらありゃしない」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「カゲちゃん、今日の放課後いい?」
「うん……? いいも何も……」
突然だが黒瀬カゲヒサは部活動に属していない―――家の手伝いがある、という事情になっている。
そして彼は高校に入学するよりもずっと前から修行にあけくれているのだ。
父親も
無論、将来の「仕事」のための修業であり、とやかく文句を言われる筋合いはない―――親父の弁である。
若きカゲヒサとしては色々反抗したい年頃であるようにも思えるのだが、修行の一環で身に着けたワイヤー移動法がなければ、今頃あの世行きにされているところなので、最近は全く反抗的な態度をとらない。
そんなこんなで部活動に所属している大多数の友人との付き合いは浅くなり、幼馴染である鈴蘭と帰路が、あと時間が被ることは多い。
「霧崎さんと話すことになったよ、これからのつまり―――女神のこと?」
兎にも角にも、そんなこんなであっさりと、霧崎わかちとの会議……会議?をセッティングしてくれた。
驚異のコミュニケーション能力である。
「話せるのか」
本当に?
「一体なんだと思ってるのよ、クラスメイトでしょお……霧崎さんだって、もう……」
眉をひそめる鈴蘭。正論を言っているつもりらしいが、黒瀬はどうにもぴんと来なかった。
先日の勇姿(?)を見てから、あの少女が同い年のクラスメイトであるということにも疑いを持っている。
鈴蘭よりも、自分の方が彼女の本質を知っている。
黒瀬はそう思っている。
「カゲちゃんに話があるって」
「! ……あ、ああ」
それには少し、いやかなりの驚きを感じた黒瀬だった。
あいつから?はっきりとした意思がある?
ただ……まあ霧崎にとっても女神への対応は協議せねばならん問題なのだろう。
何を考えているかわからない女子だ、と呟いた黒瀬だが、それはカゲちゃんが女子のことを
直接対談する場所が出来た以上、鈴蘭とやんややんやと話し合っても無駄だろう―――後でちゃんと取り戻せる。
安心すべき―――なんだろう、きっと。
兎にも角にも、平日の放課後にとあるファミリーレストランで話すことになった。
ふと、視線を感じた。
眼鏡を指で抑える
鈴蘭は目を丸くしたまま首を傾げた。
「……何かあったの?」
「いや……」
黒瀬はクラスメイトの目を引くことが多い。
……と、思っているが目立つのは嫌なので、じろじろ見つめられるのが遺伝子レベルで苦手なので、おとなしくを心掛けているつもりだ。
とにかく女神だ。
「女神のアレしか……まあケーオ……この前話したアタマ炎上の女神を倒した時点で、向こうから目をつけられているだろうからな」
「はい、席について―――」
訳もわからなく、死にたくないだけだよ。
神であろうが何だろうが、殺されたくない。
そう、彼女も同じ……はずだと信じてはいるが、沸いてくる想いはある。
なんなんだ―――、この、女神と対峙する以上の緊張感は。
空の明るさがややおとなしくなって―――放課後が訪れる。
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