第11話 神から送られし手紙
愉快なクラスメイトのちょっかいも程々に終わった。なんだかんだで彼ら、連中遊び半分だったようである。すなわち本気ではない。
そこまでの、つまり情熱はなかったということだろう。
あとは、黒瀬に友人というか長年の話し相手といえる存在があることに、なんだか毒気を抜かれたというか、安心を覚えたという男子三人の内心であった。
黒瀬は目立つタイプではない―――それも、意図的にそうしている、振舞っている。
普通の男子のふりをしている。
高校の普通科には、父親の要望で入った。
入学した―――普通の男子だ。
誰から見てもそう見えるようにしろ―――それ以外認めない、という家庭の事情である。
「———ところで話は戻すんだが、女神から手紙が届いたんだ」
今の問題、異世界転生の問題に立ち返るカゲヒサ。
「……ええっ、なにそれ、どういうこと?」
手紙という意図せぬワードに困惑する。
メッセージを送り合える仲になっていたのか。しかし、そんな温厚な……穏やかな間柄だったならば、なぜトラックで追いかけられるなんていう事態になったのだろう。
黒瀬は学ランのポケットから便箋を取り出す。
光もしない、普通の紙である。
鈴蘭あやめは、のぞき込む。
どういうことなのか、聞きたいのは黒瀬も同じであった。最初から、どういう理屈で襲ってくるのか納得ができない、一度もしていない。
手紙も今回、一方的に送り付けられたのでわかりはしない。
しかし触れると違和感を感じるものであることが、わかる―――頑張って人間界のものに近く生産しました、というような作りに、違和感を覚える。
ポストから純白の封筒が出てきたときには、見た瞬間にいやな予感を感じ取って黒瀬である。……ていうか配達されてきたのか。
「紙の手紙って、私、見るのひさしぶりかも」
「……それは確かに」
黒瀬も想うところはある。ご先祖様が見たら、どう思うだろう。目を丸くするだけだろうか……?
令和の余など知らぬ、本来の忍者は―――。
「カゲちゃんこれ、ポストに入ってたっていうけど、切手がないよ?」
「あっ」
「あ、じゃないでしょ」
そうすると配達されて、人がポストに入れたわけではなく、おそらく女神がダイレクトに黒瀬家のポストに入れに来たのだろうが。
……何なんだよこれは。
俺になんの推理をさせているんだ?
どっちにせよおかしいだろうがよ。神さまがやることかよ。
「そもそも、アレを神だと認めてないけどな……!あんなのを」
しゃらり、とやや不思議な音をひびかせつつ、封筒から紙を取り出した。黒瀬が読んで聞かせるつもりらしい。聞かせようとする―――。
鈴蘭の脳裏に白髪老女が筆を取る姿が浮かんだ。
彼女は女神の姿を、黒瀬から口頭で聞いた程度の経験というか認識で想像している。
―――前略。
転生抵抗度 S級七位『令和忍者』 黒瀬カゲヒサさま。
現在お日柄の良い日が続いているようですが、いかがお過ごしでしょうか。
お誘いのために、改まった手紙を送ることに決めました。
お誘いであり、お願いでもあります。
以前、私どもが遣わした女神からの、異世界転生の件、考え直していただけたでしょうか。
この世には、あなたがまだ知らない、素敵な世界があります。
いえ失礼———この世ではありませんがあの世にはあります。
その世界では魔法や理外のモンスター、そして神の加護。たくさんの冒険が、あなたを待っています。
大冒険、大いなる異変、退屈とは無縁。
もちろん、人生である以上、山あり谷あり―――様々なことが降りかかるとは思いますが、あなたに手紙を送ったのは、それを乗り越えることが出来る人材だと見込んでのことです。
特別であることの保証でもあります。
あなたほどの才格があれば、異なる世界でも
その力を、異世界で発揮してみようという熱意を、今一度抱いてみてはいかがでしょうか。
私たちはあなたの一族の実力を買っています。
戦国の世ならあるいは、一国一城の主から、重要な任務を任される者、役割を背負う者となったでしょう。その世界に名を轟かせたでしょう。
あなたは私たち『神』を相手に迷惑をかけていますが、あなたも困っているでしょう。 きっと生まれてくる時代を間違えたに違いありません。
どうか異世界に渡り―――その才覚を発揮してみてはいかがですか。
来世でのご活躍や一族の繁栄を期待しています。
その意思が生ずるときは、神のご加護を与えましょう。
「……ってことだとさ」
「まったくブレてないね」
顔を見合わせる。神の手紙———それはもう少し続く。
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