第9話 女神という存在
ニュース番組になっている。
ニュース沙汰になっている。
黒瀬を取り巻く異世界転生の事象は、日本国民に知られている。
ただし、女神は基本的に、カメラに映らない。この世の存在ではないことは確からしい。あるいは奴らが映らないように、何かをしているのか、詳しいことはわからないが、火とあらざるものだったという認識は元々あった。今さら驚くまい……。
それでも異空間からいきなり出没する『トラック』そのものについては、ハッキリとカメラに映るらしく、「私も見た!」という目撃者は多数である。
考えたくもないことではあるが、被害者も相当数存在する。
女神が『異世界に送る』際には亜空間らしきものに人間が消えていくので、その現場には血痕も残っていない。それゆえに現実味が薄れるが……。
異世界転生をさせる、という真偽について黒瀬は疑っているが、人類をこの世から消していることは事実らしい。
女神自体がカメラで捉えられたことはないものの、突然出現するというトラックを、マスコミ等、テレビ屋もついに無視できなくなってきた。
当然、ニュースでも特集が組まれたりした。
謎の交通事故、トラック限定の事故。
そうやって特集は組まれたものの、だからといって、一般人に何が出来るのだろう。
神を相手に、何が出来るというのだろう、明確な対策など出せていない。
ただ、いまのところはテレビ業界が視聴率を稼ぐための道具としている節はあった。
そのトラックが人間界に存在するものではないことは、周知の事実となり、当然どこで生産されたかも、なにを運んでいる貨物トラックなのかも、わからない。
ナンバープレートは当然のようにない。
運転席に誰も乗っていない。
自動運転技術を人類よりわずかに先駆けて実行している異常者ども。
それが女神であった。
黒瀬も経験者なだけあって、テレビに映るコメンテーターを無視することが出来ずに、その日は番組を流し見していた。一応、見ていた。
黒瀬のように身体能力や空中の移動で無理矢理回避を続ける男子は稀だ。彼自身は、『ちゃんと見てれば可能』くらいの感覚だったが――確かに一度避ければ、ブロック塀に突っ込み、二度と動かないトラックも多かった。
そもそもに、敵は小回りが利かない。
だが通常の人間に、そういった対応が―――あれの完全回避が、可能とは思えない。
黒瀬のような一部の例外のみが、女神を退けてきたのだ。
義務教育以外も受けてきた、訓練を受けてきた高校生男子だからこその結果というか、成果である。
代々将軍家に仕えてきた
闇に生きる一族。
陰キャのサラブレッド。
それが黒瀬カゲヒサである。
ちゃんと見てれば可能、———なわけがあるはずない。
画面内では、なんだか大層な役職名だか肩書を付けた大人たちが机に並んでいたが、敵は人間の常識が通じない連中である。万人受けする、万人向けの対策を出せるわけなどない。
警察も、無能とまではいわないまでも、『神』に対抗せよというのはあまりにも無茶苦茶な要求だ。
画面内では、なんだか大層な役職名だか肩書を付けた大人たちが机に並んでいた。
沈黙していた彼らだが、口を開く。
まとめるに、交通ルールを守り、車に気をつけて歩きましょう―――という対策が番組内で流れた際には、その画面に
「え……リビングに置いてあるの? ……手裏剣」
鈴蘭が不審な目つきを向けた。
「置いてはないよ……ものの例えだっつーの」
流石に二十一世紀にもなれば手裏剣を使う意味は薄いと確信している令和忍者である。
もっと使い勝手の良い武器など、いくらでもある。せいぜいが
ともかく女神たちの存在は、この日本で知られつつある。急速に拡大したというか、誰も無視できなくなった。
女神たちが襲うのは、何も黒瀬カゲヒサだけに限らない。彼は特別でイレギュラーなS級ではある。
だが―――、彼が全てではない。
主に若年層を異世界に
だが今のところそれに対する対策方法は現時点ではわからないとなっている。
神出鬼没の神である。
「カゲちゃん、ところでどうする?」
鈴蘭が爽やかな笑顔を向けた。首の傾げ方が、つくづく絵になる女だった。
「……」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「どうだ、様子は?」
「待てよ、バレたらどうするんだ」
「なんなんだよ、黒瀬のやつ!」
それは黒瀬と先ほどまで一緒にいた三人の男子生徒だった。校門で帰宅のために分かれたと見せかけて、しかし付いてきたらしい。
今は押し合いへし合い、電柱の影でガサガサと動いている。
三人の視線の先は黒瀬と、鈴蘭だった。
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