第6話 異世界へ誘う女達! 女神協会 2


「室長、この前の話、まとまりましたぁ! あと、進みましたぁ~!」


 室内に駆け込んできたのは、眼鏡をかけた女だった。

 白い羽衣を纏っているが、やや丈が長い―――室内の女神とはおもむきが異なった。


 書類を脇に無造作に抱え挟んでいるからか、バタバタと、危なっかしい駆け寄り方をする。小動物のような動きは、見ようによっては幸福感をバラまき微笑ましくも映るだろう。


 泣黒子なきぼくろの、科学者風に見える容姿の女。


【ロプ・デルバー】

 女神協会 異世界転生課 転生開発部、副室長———。


「転生用の新型トラックの実走試験が終わりました! 目標に対しての誘導システムの強化試験! 問題なしです」


 その視線の先には、教官と思しき老女がいた。無表情で報告を聞いている。

 

 三つ編みを揺らし、頭を手でかくロプ。

 ロプはこの天界でのみ、活動するチームに所属していたーーー人間の住む世界に渡り活動をしたりはしない。

 そんな天界専門の彼女が言うーーー報告する。


「―――次世代の転生トラックでは、標的ターゲットの転生効率ーーー30%の向上が見込めます〜!」


 興奮した女の声を聞いて。

 年配の女神が、その瞳を三倍は見開いた。

 拡張していた。


「ロプさぁん!? あ、あなたねぇッーーー」


 老女が血相を変えて、つかつか、と早足で歩み寄る。ガシッと、指が食い込むのではないかという強さで、白衣の女の両肩掴みした。

 険しい顔の妙齢の女性。


「素晴らしい……ッ 予想以上の成果よ……!」


 囁き、目がギラギラと輝いている。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 ぱしッ、と白髪老女はきびしい目つきで支持棒を持っている。常日頃から、使命感を持ったような表情が特徴だ。

 彼女が今、ディスプレイじみた水晶の画面を叩いた。


【カリヤ・プローナ】

 女神教会 異世界転生課 冠位長


「ここにいる皆はご存じのことと思いますが―――現在、異世界転生の需要が急激に増大しています」


 まったく嘆かわしい、とばかりに首を振る冠位長。右肩上がりのグラフがある。

 

「今が一番―――大事、大切な時期なのを、お分かりですね」


 元々厳しい目つきの白髪老女である。

 女神たちは別段、表情を変えない。


「今さらなぁにをかしこまってんですかァ?冠位長」


「耳にタコでありんす」

  

 椅子の背の部分に肩を乗せて、顎をあげるケーオ。両袖により口元を隠すフロス。


「現在、ロプさんに言って新型トラックの開発を進めていたところです―――がッ!———今回ほどうまく進むことは稀です」


 眼鏡女がすこしばかり怯みながらも、ウンウンと頷いている。開発部も、全力で回しているのだ。


「需要に供給が追いついてないって事だね?」


「そう! それゆえに私たち異世界転生課は、役割を果たさなければなりません! ―――『転生』と、『夢のような世界のために』!」


「ただ、ここで抵抗度の問題があります」


「異世界に抗いし者———と言えば、格好をつけている気もしますが―――」


 格好をつけているだけ。

 カリヤ冠位長は言う。


特別イレギュラーね?」


「抵抗してくる奴が何人かいるって話だ、ろ? わかってるよォーーーそンなこと」


 異世界転生を続けるうちに、人類の中に特殊な者たちがいることが判明した。突如出没するトラックに対し、抵抗者はたくさんいた。異常たる特質で持って、異世界転生を回避している。または、妨害している。

 異世界転生という、あまりにもシンプルな「素晴らしい世界への移動」をーーー否定する者。


「皆さん、『黒瀬カゲヒサ』も重要です―――目に焼き付けておきなさい。彼にも正式なお達しが来ました。S級の転生抵抗者であることは決定事項です」


 ざわめきが、室内に起こった。

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