第5話 異世界へ誘う女達! 女神協会


黒瀬カゲヒサ。

今回、異世界からの使者からの誘い―――転生の回避に成功。

彼とクララの戦いはいた。

その画面には黒瀬の困惑と不機嫌そうな表情が映し出されている。



 円形大テーブルの中心に球体の水晶を鑑賞する女がいた。

 否、女たちが、いた―――皆、美術の教科書にそのまま載せられるような長身で豊満な体型である。


「はーっはっは 派手なやられっぷりだぜぇ―――ッ! クララァ」


 女の声が響いた。白い羽衣を纏っている。


「アレがくだんの少年、『S級7位』黒瀬カゲヒサか———。 なるほど厄介だねェ、転生しがいがあるってもんだ」


 

 ぎらぎらと、瞳に溢れる情熱を隠さない、強談ごうだんそうな女であった――。太ももを組み替えつつ、背を白い椅子に預ける。

 彼女の髪は銅色のかんざしを薪のごとく交差している、積みあがっていた。そこから、キャンプファイヤーのような赤い髪が天井へ向けて散らばり伸びていた。

 髪が雑草じみて大雑把に揺れる。


 

 瞳は、挑発的好戦的に画面を見つめていた。未だ、興奮冷めやまない様子で、声を漏らす。堪えられないようだ。

 ついに、顎先を天井に向けるほどに大笑いした。



「あー――ッははは、あは、あはは―――ッ! あッはッは!」


【 〝煇奥きおう〟———ケーオ・フィラメント】


 女神協会めがみきょうかい 異世界転生課いせかいてんせいか一級轢殺師いっきゅうれきさつし

 累計轢殺人数るいけいれきさつにんずう———、223055。




「あらあら、耳障りですわよ、あとは目障りですわよ……ケーオさま」


 腹を抱えて笑う女、いや笑い続ける女を見咎める女がいた。

 水を差すように―――さらには不穏な静けさをも漂わせる。

 彼女もまた白い羽衣を纏っている。


「なんと才覚感じる子でありましょうか」


 聞こえていようがいまいが、言葉を続ける。

 口元に袖を当て、微笑んでいるが袖が長く、指は窺えない。

 袖の裏は、唇が濡れて光っている。


「なんの問題もない子で宜しいじゃありませんか……異世界に渡った後も!」


 彼女は大仰な身体動作こそなかったが、感情の昂ぶりは強いようだ。

 ぴきぴき、と袖で隠した下顔部から謎の音が響いている。


「ふふふ―――ああいう子を連れ込みたいですわぁ、『異世界』へと……!」

 

 異世界転生を拒む少年、黒瀬カゲヒサは女神からすれば忌み嫌われ、反乱分子として見られる存在であった。

 しかし彼女は薄ら笑いを続ける。

 瞳は喜び―――あるいは悦びに輝いている。


「ふふふ……ッ りんしょうりんしょう……ッ 異世界は真の楽園なのですから……ッ!」



【〝寒轌かんぞり〟フロス・パゴス】


 女神協会めがみきょうかい 異世界転生課いせかいてんせいか二級轢殺師にきゅうれきさつし

 累計轢殺人数るいけいれきさつにんずう———、194042。



「———それが、新しい子?」


 白い羽衣を纏っている。

 黒い椅子に座り、黙って自身の爪に筆を当てている黒髪の女がいた。 

 耳から長爪形状のイヤリングが下がっている。


 その女も黒瀬の動きを見ていたようだが、今は鏡と爪だけを交互に眺めている。

 黒く、しかし輝く爪を求めて作成している。

 ウエストと椅子の背に巨大な空洞が開けている。


「ええ―――まあまあ―――ね、いいんじゃない? クロセ―――クロスじゃなくて?」


 不機嫌なのか、単純に興味がないのか判然とせぬ声色でぶつぶつと呟いている。

 真剣そのものな視線は、自分の手の先に向いている。そのからすのような黒い爪に視線をしっかり釘付けとした。

 厳しく評価する目になったり、憧れたり黄昏たそがれたりといった豊富な表情を見せた。


「心配せずとも、転生させるわよ―――させればいいんでしょ?」


 形の整った唇で、啖呵を切る女。

 その唇の端からは犬歯が覗き主張していた。


「ミゲル!ちょっと来なさいアンタ!」


【〝銭輟せんてつ〟ニイル・コフテロォ】


 女神協会めがみきょうかい 異世界転生課いせかいてんせいか一級轢殺師いっきゅうれきさつし

 累計轢殺人数るいけいれきさつにんずう、276437。


 ミゲルと呼ばれた、小学生程度の年頃の少年。

 穢れなき白髪の少年が、眠たげな目つきをしたまま、黒髪女に駆け寄っていく。

 女神と共にいる以上、彼も人間の少年ではない。

 背中には白い羽が控えめに付随していた。彼は異世界転生課の天使である。


「ミゲルどう? 感想あるんでしょうね?」


「ええ、とても美しい爪ですね。 爪は美しいと思いますよ」


 少年の対応はきわめて冷静だった。

 まわりの喧々囂々けんけんごうごうから、彼だけ浮いている様子である。

向き合っている二人を他所よそに、赤髪が周囲に首を振っている。


「あれ? そういえばブロンディのやつはどこへ行った?」


「さあ―――さっきまでいましたね。 あの新人」


 ばぁん、と大きな環境音。

 その時、クリスタルめいた材質の扉が音を立てて開いた。


冠位長かんいちょう! 冠位長はいらっしゃいますかぁ!」


 また新たな女の声が響いた。


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